鈴木十郎コレクション-押隈-
国立劇場所蔵の「鈴木十郎コレクション」から押隈54点をご紹介します。
江戸期から明治期にいたる歌舞伎関係資料の膨大な蒐集である「鈴木十郎コレクション」は、昭和54年(1979)に「政府出資資料」として、国立劇場の管理に移されたものです。近年では、平成26年(2014)『鈴木十郎コレクションの内-代々の團十郎-』や、令和5年(2023)『国立劇場所蔵芸能資料展』等の機会に、そのコレクションの一部を展示公開してきました。
このたび国立劇場では、古典芸能研究家の石橋健一郎氏に調査監修を、安冨順氏に各資料の解説の執筆を依頼し、「鈴木十郎コレクション」のデジタル公開に取り組みます。今回は、54点の押隈資料を公開いたします。貴重な資料の数々をどうぞお楽しみください。
伝統芸能情報センター 調査資料課
鈴木十郎コレクション
鈴木十郎氏(1896~1975)は、早稲田大学文学部英文科を中退後、ジャーナリストを経て興行界に入り、歌舞伎座支配人、松竹株式会社大阪支社支配人等を歴任。空襲で焼失した歌舞伎座の復興にも尽力し、昭和24年(1949)年から郷里の神奈川県小田原市で市長を5期20年務めた。
総数約1,200点に及ぶ氏の歌舞伎コレクションのうち、約700点は俳優関係のもので、押隈、書画、書簡、日記など俳優自身の手になるもののほか、愛用品、配り物、贈り物から借金証文なども含まれ、いずれも一点ものの貴重な資料である。昭和期のものも少なくないが、圧倒的に多い江戸から明治期のものは、古書店・古美術商などからこつこつと蒐集されたものであった。契約書類や届出書類など、明治期の興行関係資料も多い。
このコレクションは、氏の没後、ご遺族から文化庁に寄贈され、昭和54年(1979)、国立劇場の管理に移された。国立劇場の所蔵する芸能資料のなかで、大きな柱となるものである。
鈴木十郎コレクションの押隈
押隈とは、記録や記念の意味で、隈取を絵絹や羽二重に写し取り、これに年月、役名、落款などを書き添えたものである。舞台を終えた直後、汗で化粧が浮いた状態の時に素早く取るものなので、1日1枚限り。最大でも公演日数分しか取れない希少なものである。
押隈を意識的に取り、残すということが一般的になったのは、さほど古いことではないらしい。鈴木十郎コレクションの押隈は54点で(隈取ではなく、通常の舞台化粧を写し取ったものも含まれる)、その中核をなすのは昭和前期のものである。歌舞伎の黄金期であったこの時代を代表する名優たちのものが揃い、なかには丁寧に賛を加えたものもあって壮観である。同時に、押隈というものが普及したのも、この時代であったことを想像させる。
そのなかにあって、注目されるのは、明治期を代表する二大名優、九代目市川團十郎(1838~1903)と五代目尾上菊五郎(1844~1903)の押隈が含まれていることである。額装の裏書によれば、前者は明治20年(1887)4月、後者は同5月のもので、収集家・林若樹(1875~1938)の旧蔵品である。また、菊五郎の押隈の額装裏書に「面隈押紙」とあるが、「押紙」という表現は前記の八代目團十郎のものにもみられ、興味深い(実際に、この隈は和紙に押されている)。
石橋健一郎(古典芸能研究家)






















































