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下村観山筆「白狐」 / Colabase(東京国立博物館蔵)

イヌ科の哺乳類。身近な野生獣ながら古くより霊威ある動物とされ、多くの民話・昔話、芸能作品などに登場してきた。

食肉目イヌ科。体長4590cm、尾3055cm、体重3~14kgほど。四肢が短く、胴が長い。口先が細く、三角形で大きな耳を持つ。尾は長く、豊かな房毛(ふさげ)が生える。尾の付け根のスミレ腺から特有の臭いを発する。ユーラシア大陸や北米など広く分布し(約35亜種)、日本では北海道にキタキツネ、本州・四国・九州にホンドギツネが生息する(いずれもアカギツネ)。草原や半砂漠地帯、山林地など生息域は広い。夜行性で用心深いが、人里にも現れる。雑食性で、獲物はときに穴に貯蔵する。ふつう単独で暮らすが、育児期に雄が食物を運ぶ。ギンギツネなど厚く美しい毛皮は襟巻やコートなどに賞用され、飼育繁殖が行われる。欧米のキツネ狩りも知られる。

中国では化けて人をたぶらかすなど妖怪の一面が多くの伝説を生み、日本にも伝えられたが、その一方、奈良時代から白い狐をめでたいしるしとするなど霊獣ともみなされ、狐を祀ったり、狐で豊凶を占ったりする習俗があった。また田の神、稲荷神の使いとする信仰により、伏見稲荷大社をはじめ諸国に稲荷神社が祀られた。狐塚は稲作の神としての狐を祭った跡という。狐穴などに油揚げ、赤飯、干鰯(ほしか)などを置いて祈願したりする寒施行(かんせぎょう)の行事もあった。

その霊威への信仰は真言密教など仏教とも結びついて広がり、また狐火(きつねび)や狐の嫁入り、狐憑(つ)きなどの説話や迷信がうまれ、美しい女に変じて人間の妻になる狐女房など人間に化ける話も豊富である。こうした多彩な狐は、伽草子や落語、狂言、人形浄瑠璃、歌舞伎の舞台にも登場する。日常の暮らしにも、油揚げの別称や、噓つきや悪賢い人などにたとえる諺、キツネアザミなどの植物名など、狐にかかわるものが多い。

関連するひと・もの・こと

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日本書紀 斉明天皇3年9月

石見(いわみ)国より「白狐」が現れたという報告を記す『日本書紀』の記事。掲出本は、慶長15年の古活字版。『日本書紀』の刊本としては慶長4年(1599)の勅版が最初だが、これは神代巻のみ。全巻刊行はこの古活字版が最初。高木利太(1871-1933)旧蔵。

万葉集 巻16「長忌寸意吉麻呂歌八首」

長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)の歌。宴会の最中に狐の声が聞こえ、狐の鳴き声や飲食具などを読み込んで作れというリクエストにこたえて即興で作ったとされる。「さす鍋に 湯を沸かせ子ども 櫟津(いちひつ)の 檜橋(ひばし)から来む 狐に浴むさむ (刺名倍爾 湯和可世子等 櫟津乃 檜橋従来許武 狐爾安牟佐武)」。「檜橋従来許武」の「許武(来む)」は狐の鳴き声「こん」にかける。掲出は『万葉集』最古の刊本で、万葉仮名の本文のみで、無訓本と通称されるもの。高木利太(1871-1933)旧蔵。

源氏物語 蓬生 

都を離れた光源氏の庇護を失って、困窮する末摘花の屋敷の荒廃の描写。「もとよりあれたりし宮のうち、 いとときつねのすみ家になりて」とみえる。 掲出本は、嵯峨本(あるいは角倉本)の名で知られる、慶長年間(1600年頃)刊の古活字版の一本。その装訂は現存する伝嵯峨本の中でも最も良く原装を伝えるものとされる。

狐媚記

狐媚記(こびき)一卷。平安末期の政治家、漢文学者、大江匡房(1041-1111)が、康和3年(1101)京都に狐が現われて人を惑した顛末を記したもの。「本朝続文粋」巻第十一所収。掲出は群書類従本。

徒然草 218段「きつねは人にくひつく物也」

堀川家の舎人(とねり)が寝ていて足を咬まれたという話、仁和寺の本堂前で法師が狐に食いつかれたので、刀を抜いて防いだという話が記される。掲出は、嵯峨本の『徒然草』。アメリカの蔵書家ドナルド・ハイド(1909-66)の旧蔵本で、巻末に「拜土蔵書」の印記がある。

御伽草子 きつねの草子

破戒僧による異類婚姻を描いた御伽草子(室町物語)。美女に招かれた老僧が豪華な屋敷で悦楽の日々を送るが、ある日錫杖を持った数人の若い僧が屋敷に乗り込むと、美女も家人も狐の正体を現し、逃げ去った。僧がいたのは金剛聖院の床下で、7年の歳月を過ごしたと思われたが、わずか7日間の出来事で、若い僧は地蔵菩薩であったとする。掲出本は、伝土佐光信画の絵巻(現存不明)を模写した絵巻(小絵)。

御伽草子 玉もの前

前半は、玉藻の前という狐の知恵を披瀝するために諸説話・故事を羅列した一種の往来物。後半は、この狐を退治する怪物退治譚となっている。掲出の場面。那須野で二尾の狐を見つけ、皆、手柄を立てようと追いかけるものの、神通力を得た化物だけに巧みに逃げられてしまったという。掲出本は、前半9図、後半4図の奈良絵本。屋代弘賢(1758−1841)の「不忍文庫」、徳島藩の「阿波国文庫」の印記がある。

狂言絵巻  狐塚

「懐中聟」「連歌盗人」「あく太郎」「雁盗人」「朝比奈」「墨塗」「髭櫓」「粟田口」「狐塚」の9曲の狂言の主要場面を描き、曲名と台詞の一部を書き添えた巻物から、「狐塚」の一場面。本絵巻は、演者の動作が的確にとらえられ、顔貌や衣装などもきわめて細密に描かれており、芸能史の資料としての価値も高い。

御伽草子 こわたきつね

『木幡狐(こわたぎつね)』。室町時代の御伽草子。山城国木幡に住む稲荷明神の使いの狐の子のうち、芸能にすぐれ美しい末の姫「きしゅ御前」が、人の姿に化けて一夜の契りを結ぼうと都に上る。中将と契りを交わした御前は若君をもうける。若君3歳のおり、中将の乳母が犬を進上したのに恐れて、狐の姿にもどって、泣く泣く木幡に帰り、若君の将来を見守って仏道にいそしんだという。

伊曽保物語 中・第35「狐と鶏」

『イソップ物語』を翻訳した仮名草子『伊曾保物語』の狐と鶏の話(犬とオンドリとキツネ)の挿絵。狐が木の枝に止まった鶏を食べようと降りるように声をかけるが、狐の魂胆を悟った鶏は相手にしない。掲出は、万治2年(1659)刊の整版本。上中下の各巻にそれぞれ5図を有する絵入り本。幕末・明治の蔵書家中川徳基(1833‐1915)の旧蔵書。

浄瑠璃 芦屋道満大内鑑

「芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)」。浄瑠璃。時代物。竹田出雲作。享保19年(1734)大坂竹本座初演。信太(しのだ)の森の白狐(葛の葉姫)が安倍保名(やすな)の妻になった伝説(平安時代の陰陽師安倍晴明の出生譚をからめたもの)に取材したもの。

浄瑠璃 義経千本桜 四段目「狐の前」外題

人形浄瑠璃・歌舞伎の演目の一つ。五段続の四段目(河連法眼館の段)に狐の化身である狐忠信が登場する。

読本・白狐伝

中本型読本。塩屋艶二(しおやえんじ)著、魚屋北渓画、享和4年(文化元年、1804)刊。1冊。塩屋艶二は寛政・享和期(1789-1803)の洒落本作者。平安時代、将門・純友討伐に従軍した武士の守護神となった白狐が京に上る途中の出来事を、中国白話小説の訓訳調で滑稽に描いたもの。

合巻・三国妖狐殺生石

合巻。五柳亭徳升(1793 ‐ 1853)作、歌川国安(1794 - 1832)画。文政13 年(1830)刊。平安時代、は玉藻前(たまものまえ)に化けた九尾の狐は鳥羽上皇の寵愛を受けるが、その正体が露見して仕留められるや、人間や動物の命を奪う殺生石に変じる。のち玄翁和尚の法要によって殺生石は砕かれ、九尾の狐は成仏したという。

柳田國男 孤猿随筆

民俗学者柳田國男(1875 - 1962)の著作。昭14年(1939)刊。「松島の狐」「狐飛脚の話」などを収載する。狐飛脚は、遠距離を往来し、過去および未来の出来事を告げる力が狐にあるという信仰を扱う。

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参考文献

  1. 『世界大百科事典』(japanknowledge) 「狐」の項
  2. 『日本大百科全書』(japanknowledge) 「狐」の項
  3. 『日本国語大辞典』(japanknowledge) 「狐」の項
  4. 日本歴史大事典小学館
  5. 狐 : 陰陽五行と稲荷信仰 吉野裕子著,法政大学出版局,吉野, 裕子(1916-)||ヨシノ, ヒロコ <AU00257599> 著
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