平安文学を受け継ぐ~「翻刻 平安文学資料稿」の世界~【広島大学図書館所蔵古典籍】
広島平安文学研究会(広島大学文学部)による翻刻の底本を一覧します。
古今和歌集や伊勢物語、源氏物語をはじめとする平安文学は、1000年以上にわたって人から人へと受け継がれ、読み継がれてきました。人々と作品との関わり方はさまざまで、作品を単体で読む場合もあれば、より深く理解しようとする研究的視点のもと、注釈を施したり辞書等を作成したりする場合もありました。広島大学図書館には、そういった人々の営みを記し留めた資料が多数所蔵されています。
広島平安文学研究会(広島大学文学部)は、中世・近世において研究的視点のもと作成された資料について考究し、各資料の翻刻・解説を「翻刻 平安文学資料稿」として世に送り出してきました。研究会を創設した稲賀敬二氏は、その第一巻の発行(1967年)にあたり、刊行意図を次のように述べています。
たとえ最善の本でなくても、ある一本が翻刻されていれば、各地に散在する諸本の調査に当って便利であろう。その本の性格を報告するにも、相違点をあげるだけで事がすむ。
諸伝本の完全な調査の結果をまとめて世におくる事は、望ましい事ではあるが、暫定的にすぐ利用できる一本が翻刻されている事は、何かと研究上の便宜があるであろう。
無しにはすまされぬ必需品というわけではないから、本格的に出版される望みは薄く、仮に出版されてもこれを求めるにはかなりの経済的負担をしのばねばならぬ。
――そういう諸点を考えて、「翻刻 平安文学資料稿」を始める事に致しました。何時の時か、どなたかの手で、より完全な資料がおまとめいただけます時まで、しばらく御利用いただければと存じます。
本ギャラリーは、この「翻刻 平安文学資料稿」で底本として用いられたもののうち、広島大学図書館に所蔵されている古典籍を、デジタル画像で御覧いただけるよう、企画しました。たとえ最善の本でなくても、翻刻とともに画像を見ることができれば、内容の理解や研究に資することと思われます。また、最善であってもなくても、ひとつひとつの本には、平安文学をより深く理解したいと願った人々の思いが反映されています。縁あって広島へともたらされた、平安文学を受け継ぐ資料の数々を、どうぞお楽しみください。
Table of Contents
翻刻 平安文学資料稿第一期
室町時代後期の連歌師*である牡丹花肖柏(ぼたんかしょうはく、1443~1527)の『源氏聞書』を基本資料として、公卿・歌人の三条西実隆(さんじょうにしさねたか、1455~1537)が編纂した源氏物語注釈書。
江戸時代の国学者*である和田祖能(わだそのう、1747?~没年未詳)が文政12年夏に源氏物語の登場人物を詠んだ和歌を石山へ奉納、その和歌に天野直方(あまのなおかた、生没年不明)が評注を加え、さらに祖能の源氏物語評論を付して、文政13年に刊行したもの。
室町時代後期の連歌師である宗祇(そうぎ、1421~1502)による長享三年の源氏物語講釈をもととして、同じく室町時代後期の連歌師・牡丹花肖柏(ぼたんかしょうはく、1443~1527)の『源氏聞書』も借りながら、連歌師・藤原正存(ふじわらまさあり、生没年不詳)が著した源氏物語注釈書。
室町時代後期の連歌師*である宗祇(そうぎ、1421~1502)の講釈を弟子の牡丹花肖柏(ぼたんかしょうはく、1443~1527)がまとめた伊勢物語注釈書。
『弄花抄』第一巻の翻刻(『翻刻 平安文学資料稿』)と原本画像を並べて比較閲覧できます。
翻刻 平安文学資料稿第二期
翻刻 平安文学資料稿第三期
伊勢物語の冷泉家流注釈書の一種。鎌倉時代から室町時代中期までの伊勢物語注釈は古注*と呼ばれ、冷泉家流注釈書はその古注の内容を伝える。
室町時代の歌人の冷泉持為(1401~51)による古今和歌集講釈の聞書。*仮名序・*真名序はなく、春上から*墨滅歌までに注を施している。
伊勢物語講本*の諸本の一本と目される伊勢物語注釈書。注釈者の可能性として、講釈日の記述から烏丸光広(からすまるみつひろ、1579〜1638)、あるいは引用された注釈の特徴から後水尾天皇(ごみずのおてんのう、1596〜1680)などが想定されるが、未詳である。
室町時代後期の連歌師・牡丹花肖柏(ぼたんかしょうはく、1443~1527)による『伊勢物語肖聞抄(しょうもんしょう)』の注を継承しながら、室町時代後期の儒学者・清原宣賢(きよはらのぶかた、1475~1550)の『伊勢物語惟清抄(いせいしょう)』、公卿・歌人の三条西実隆(さんじょうにしさねたか、1455~1537)の『伊勢物語直解(ちょっかい)』、歌人の細川幽斎(ほそかわゆうさい、1534~1610)の『伊勢物語闕疑抄(けつぎしょう)』などから影響を受けた伊勢物語注釈書。
室町時代中期の公卿・歌人の飛鳥井雅親(あすかいまさちか、1417~90)・雅康(まさやす、1436~1509)等からの歌道*聞書。筆録者は、細川家被官の上原豊前守賢家(うえはらかたいえ、?〜1495)と目され、彼の没年以前に成立したと考えられる。
源氏物語の語句についての注釈を記した辞書。江戸幕臣文化圏において明和から寛政前半を中心に活躍したと思しき源義亮(空阿)の手になる。江戸中期の儒学者である五井蘭洲(ごいらんしゅう 1697~1762)の作成した源氏物語辞書『源語詁』を基として作成された『源語梯』に、義亮が自注を付加して成立したとみられる。
巻名を見出しとして、和歌を中心に源氏物語の梗概を記したものである。本文には複数段階の転写を経た痕跡が認められるが、現在のところ、広島大学図書館蔵本(国文4064N)以外に伝本の存在は確認されていない。外題は剥落が著しく判読不能であるため、整理書名として『佚名 源氏物語梗概書』としている。
河内家*の源光行(みなもとのみつゆき、1163~1244)・親行(ちかゆき、1190~1270か)の手になる『水原抄』から秘説を抜き出し、親行・義行(聖覚)(生没年未詳)・知行(行阿)(生没年未詳)と代々の考勘が加えられて成立した源氏物語注釈書。
源氏物語桐壺巻の講釈を聞書*したもので、広島大学図書館蔵本(国文4647)のほかに類本は知られない。桐壺巻のみの講釈であったのか、他巻も存した中で桐壺のみが広島大学に伝わったのか、判然としない。
『伊勢物語紹巴抄』は、戦国・安土桃山時代の連歌師*である里村紹巴(さとむらじょうは 1524~1602)による伊勢物語注釈書。紹巴の伊勢物語注釈は8種が知られているが、広島大学図書館蔵本(大国2655)は、このうち「伊勢物語私抄」の増補本である。
(解説執筆)※所属は2026年10月時点のものです
弄花抄・源氏物語大意・伊勢物語純極抄・源氏物語紹巴抄・定家流伊勢物語千金莫伝・源語類聚抄・源氏物語聞書きりつぼ・伊勢物語紹巴抄…小川陽子(広島大学大学院人間社会科学研究科准教授)
源氏物語一葉抄・伊勢物語古註室町鈔…濱口倖多(広島大学大学院人間社会科学研究科博士課程前期)
源氏物語木芙蓉・佚名源氏物語梗概書…山下真梨(広島大学大学院人間社会科学研究科博士課程前期)
冷泉持為古今抄・歌道秘伝書…森俊介(広島大学大学院人間社会科学研究科博士課程前期)
伊勢物語逍遙院御抄・原中最秘抄…耕佳恋(広島大学大学院人間社会科学研究科博士課程前期)















