伊勢物語古註室町鈔
書名は広島大学図書館蔵本(国文N2584)の上冊見返しの貼紙によるが、江戸時代になって成立したと考えられている。広島大学蔵本によれば、室町時代後期の連歌師・牡丹花肖柏(ぼたんかしょうはく、1443~1527)による『伊勢物語肖聞抄(しょうもんしょう)』の注を継承しながら、室町時代後期の儒学者・清原宣賢(きよはらのぶかた、1475~1550)の『伊勢物語惟清抄(いせいしょう)』、公卿・歌人の三条西実隆(さんじょうにしさねたか、1455~1537)の『伊勢物語直解(ちょっかい)』、歌人の細川幽斎(ほそかわゆうさい、1534~1610)の『伊勢物語闕疑抄(けつぎしょう)』などから影響を受けた伊勢物語注釈書。注釈の形式は、はじめに伊勢物語本文を適宜区切って引用し、続けて注釈を一字下げで記す。記述のおおよそを『肖聞抄』の注に頼りつつ、全体の体裁・和歌をはじめとする引用は『闕疑抄』から影響を受けたと考えられる。しかしながら、第一段の注においては、先述の四書をはじめ他の主要な伊勢物語注釈書のどれにも見られない古今和歌集の歌を独自に引用している。近世初期における伊勢物語注釈書のひとつのスタイルを示すという点において、高い価値を有すると考えられる資料である。
広島大学図書館蔵本(国文2584)明らかな脱文が見られることから、原本ではなく転写本であると想定されている。写本2冊。上冊には外題が無く、下冊には左上に題簽があり「伊勢物語 下巻」と記す。上冊見返しに短冊様の貼紙があり、「伊勢物語古註室町鈔 二冊」と墨書する。両冊を収める帙に「室町古訬(ママ)伊勢物語註」との題が書かれているが、書名の拠り所は不明。奥書・蔵書印はなく、著者・成立年代・伝来等は不明。
【参考】
具惠卿校『伊勢物語古註室町鈔(広島大学蔵)上』「翻刻平安文学資料稿」第3期第6巻(1998年、広島平安文学研究会)
具惠卿・藤川功和校『伊勢物語古註室町鈔(広島大学蔵)下』「翻刻平安文学資料稿」第3期第7巻(1999年、広島平安文学研究会)
『日本古典文学大辞典 第二巻』(1984年、岩波書店):「清原宣賢」
『和歌文学大辞典』(2014年、古典ライブラリー):鶴崎裕雄「肖柏」、武井和人「実隆」、大谷俊太「幽斎」