「小平次亡霊」「安達左九郎」 / ARC浮世絵ポータルデータベース
演技と演出
このページでは、観客が普段は見られない舞台裏のご紹介をします。
【独特な表現と演技】
歌舞伎は様式的な演劇であると言われています。しかし、実際には、実に種々多様な仕方で演じられてきました。その多様さは、時に衣裳や化粧に表れたり、音や光で表現されたりもします。舞台装置や大道具を使う場合もあれば、役者の肉体を使った表現もあります。歌舞伎はそうした中で、他の演劇ジャンルとは異なる表現手法を獲得してきました。
【廻り舞台】
床の真ん中にある半分の円の部分に注目してください。舞台を円形に切り、心棒によって回転できる仕組みで、舞台装置をその中央に背中合わせに飾り付け、180度回転して場面を転換させる歌舞伎独特の舞台転換設備であり、明治以降、外国にも影響を与えています。
心棒は回転する軌道のぶれを防ぎ、操作するさまを客席から隠す働きをしました。この機構は単に舞台場面の転換を速めるためのみではありませんでした。見物の目前で表裏に飾った装置をぐるぐる回すことによって、二つの場面の異なった状況を交互に見せる、通称「行って来い」の演出を可能にしました。
【すっぽん】
舞台から続く花道の全体の3対7にあたる位置に切られた四角い舞台を上下に動かし、奈落から観客の前に姿を現わしたその瞬間を、客席から見て、実際にその花道の内側がどうなっているかを描いたものです。この迫り(せり)を、歌舞伎では「すっぽん」といいます。
スッポンが甲羅から顔を出すように切り穴から顔が出てくることから名付けられました。すっぽんを使うのは、妖術や忍術を使う人物や妖怪・化身などで、本図でも、忍術を使う尾形力丸が、煙幕とともに表われる場面です。
【戸板返し】
「戸板返し」とは、「東海道四谷怪談」穏亡堀の場で使われている「早変り」の手法です。穏亡堀で釣り糸を垂れる伊右衛門の前に流れ着いた戸板に、彼によって殺されたお岩と小平の死体が表裏に打ち付けられています。この戸板をひっくり返すことで一人二役演じることができます。表裏にそれぞれの衣裳がつけられており、戸板に開けた穴から顔を出せる仕組みになっています。
【早替り】
この演目は、通称「お染の七役」とも呼ばれます。主役である油屋お染(町娘)を演じる女方の俳優が、七役を早替りによって全て一人で演じます。この絵ではお染(女方)と久松(立役)が描かれていますが、実際の演技では、花道ですれ違いざまに女方であるお染から立役の久松に一瞬で変わります。
このように、一人の俳優が同じ場面でいくつかの役を迅速に替わってみせることを「早替り」といいます。短い時間に替わることが眼目ですので、衣裳に帯を縫い付けるなどの工夫がはらわれています。