解説
象を画面いっぱいに真正面から描く。細長い画面を逆手にとった意表を突く大胆な構図である。象の背景となる部分を全て墨で塗りつぶし、象を着色せず引き立てる手法も効果的で、これは拓版画の効果を肉筆画に応用したものと推測される。単純な作風に見えるが、淡墨と濃墨を細心の配慮を払って用いていることが理解できる。背中を三本の曲線だけで表わすなど抽象化されていて興味深い。その落款と印章から若冲70歳代半ばの作と知れる。享保13年(1728)、第8代将軍徳川吉宗の要請で実際の象が日本に持ち込まれ、その翌年、長崎から江戸まで歩いて移動したという。14歳を迎えた若冲は、おそらく京都の地でその象を実見したとみられる。本作は、実際に見たであろう象の記憶そのままに、畳一畳近くある大型の画牋紙からはみ出るほどの迫力で描かれている。若冲が手がけた「正面書きの象」は、代表作として名高い「樹下鳥獣図屏風」「鳥獣花木図屏風」を合わせて、現在確認できるのは5点のみ。本作はそのうちの稀少な1点である。
収録されているデータベース
東京富士美術館収蔵品データベース
日本・東洋・西洋の各国、各時代の絵画・版画・写真・彫刻・陶磁・漆工・武具・刀剣・メダルなど様々なジャンルの作品約30,000点の内、約2,000点を掲載。
最終更新日
2026/01/09