解説
牛島憲之は昭和40年代に入ると木版画にも興味を示し、老舗の版元であった加藤版画研究所からいくつかの木版画を出版した。本図は、昭和43年(1968)に『牛島憲之版画集 第二輯』として加藤版画研究所より限定150部刊行された版画のうちの一点。同版画集には本図のほかに、「水郷初秋」「外苑風景」「濹東」「水郷」「下田の漁村」の全6点が収録されている。本図には、青から赤へと変化する美しい夕焼けを背景に、濃紺に染まった富士山が静かに浮かび上がる様子が描かれている。前景の町は単純化されたシルエットとなって、画面に独特の寂寥感と叙情性を生み出している。煙突から上がる細い煙が人の生活の温もりを感じさせて郷愁を誘う。牛島は同50年(1975)に描いた油彩画「夕月」でほぼ同じ構図の作品を手がけているが、そこには月が浮かぶ夕焼けを背景に、ぼんやりと空に同化するように富士が描かれている。そこでの富士山はその存在を希薄にして風景の一部分と化しているが、本図では美しい曲線と柔らかな色彩が富士という荘重な主題を包み込んでいるものの、その主役はやはり富士山である。
収録されているデータベース
東京富士美術館収蔵品データベース
日本・東洋・西洋の各国、各時代の絵画・版画・写真・彫刻・陶磁・漆工・武具・刀剣・メダルなど様々なジャンルの作品約30,000点の内、約2,000点を掲載。
最終更新日
2026/01/09