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解説

1791年、パリに創業したカフェ・リッシュは、イタリアン大通りとル=ペルティエ通りの角にあるパリを代表する評判の店で、多くの政治家や芸術家、作家などが集う場所だった。1894年の改装にあたり、建築家アルベール・ラリュの指揮の下、多くの芸術家たちが装飾に関わった。その中二階の外側窓間壁には17枚のモザイク壁画が飾られることとなり、フォランが描いた下絵をもとに、イタリア人モザイク作家ファッキーナの工房が制作を担当した。そこに描かれた題材は、「自転車に乗る人物」「夜食」「スミレを売る少女」「街の新聞売り」「競馬場で帽子を被った若い女性」「ワルツ」「舞踏会の告白」「仮面と黒手袋の女」「トルーヴィルでデッサンをするフォラン」「婦人服店の娘」など、新聞や雑誌のフォランの挿絵に出てくるような人物たちであった。当時としては斬新な題材によって制作されたそれらの壁画は、作家のゴンクールが「おお!カフェ・リッシュの新しい装飾、私はあんなに卑しく醜いものは見たことがない。東洋風建築とフォーブール・サン・タントワーヌのルネサンス様式の寄せ集めの上に、フォランの不気味なフレスコ画とラファエリの色とりどりのカリアティッド。嗚呼!金と白で統一された私の昔ながらのカフェやレストランよ!」と嘆いたように、高級レストランの外壁を飾るにはおよそ似つかわしくないものであると世間から酷評された。芳しい評判を得られなかったフォランのモザイク壁画は、1898年には撤去され競売にかけられた。それらのモザイク壁画や下絵は現在一部がパリの装飾美術館とカルナヴァレ美術館に収蔵されている。ステッキを手にしたコートの男を描いた本作も、フォランがカフェ・リッシュのために描いた下絵の一枚である。カフェ・リッシュのための一連の絵画のうち《街の新聞売り》には、道端で新聞を売る少年の足元に捨てられた葉巻が燻っている。また《スミレを売る少女》には、スミレを売る少女の横を通り過ぎるコートとステッキの男の半身が描かれており、いずれも本作の男の存在を想起させる。フォランが一見繋がりのない作品群に連続性を持たせようとした意図を見ることができよう。

メタデータ

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東京富士美術館収蔵品データベース

日本・東洋・西洋の各国、各時代の絵画・版画・写真・彫刻・陶磁・漆工・武具・刀剣・メダルなど様々なジャンルの作品約30,000点の内、約2,000点を掲載。

2026/01/09