解説
暮れなずむ田園風景。とある田舎家の扉の前に家族が集まって一団となり、そこへ薪束を担いだ樵夫が帰ってきた。ある種の叙情をたたえた牧歌的な光景のなかに、理想化された農民たちの姿が描き込まれている。本作はゲインズバラの〈コテージ・ドア〉を主題にした作品群の第1作目の作品である。この主題は、生涯を通じて彼の想像的世界に現われた。ここでは、人物たちが一人一人入念に、注意深く描かれており、仄暗い画中でスポットライトを浴びたように明るく描かれた、赤ん坊を抱いて座る女性の姿は聖母子像を想起させ、それを取り巻く子供たちはコレッジョの描く祭壇画から抜け出してきたキューピッドのようである。樹葉を透かして届く濃厚な夕映えの効果や、窓に反射する光のインパスト(絵具の厚塗り)によって一層の情感を高めつつ、田園の夕暮れの家族像は、絵の中で神聖化されているのである。この作品が描かれたとされる1773年頃は、絵画表現が大きな展開を遂げた画家のバース滞在時代(1759-74)の悼尾を飾る時期にあたり、以後のロンドン滞在時代にその様式の完成をみることになる〈ファンシー・ピクチャー〉(空想画)の世界に繋がるものである。レノルズによって呼ばれたファンシー・ピクチャーという言葉は、18世紀末の肖像画と風俗画の中間に位置する絵画を意味し、田園風景の中に理想化された姿の農民たちが描かれるが、人物はアトリエでポーズをとっているかのように静止しており、実際に風景の中にいるようには見えないのが特徴である。ゲインズバラは「肖像画は生活のために、風景画は楽しみのために描く」と述べているが、もう一つの得意分野であるこの種の絵画では、空想に満ちた田舎風の光景を、その滑らかな筆力によって自由に構成しており、17〜18世紀の先達であるムリーリョ、ヴァトー、グルーズらが示唆した絵画世界を、更に英国風に洗練し発展させたものと解釈することができる。
収録されているデータベース
東京富士美術館収蔵品データベース
日本・東洋・西洋の各国、各時代の絵画・版画・写真・彫刻・陶磁・漆工・武具・刀剣・メダルなど様々なジャンルの作品約30,000点の内、約2,000点を掲載。
最終更新日
2026/01/09