解説
本作のモデルのルース・ラックマンは、ニューヨークの化粧品会社レブロンの創業者の一人チャールズ・ロバート・ラックマンの妻である(二人は本作が制作された翌年の1962年に離婚している)。赤い半袖の清楚なドレスに控えめなアクセサリーを身につけ、知的で自信に満ちた表情を浮かべるその相貌から、彼女が社会的経験を豊富に積んできた女性であることが窺える。モデルは、近世以降の伝統的な西洋絵画技法である四分の三正面像をとり、極めて写実的に描写されている。ダリは自身の絵画について「パラノイア(偏執症または妄想症)的=批判的」方法と称し、そこにはジョルジョ・デ・キリコを思わせるメランコリーな雰囲気が漂うが、本作の背景にはそうした彼特有の荒涼とした原野が広がり、故郷スペインのアンポルダ地方を思わせる糸杉、遠景には山々が横たわっている。また荒野には羽を生やした人物を追いかけるかのように馬にまたがる人物が小さく配されている。こうした点景人物はダリ作品によく登場するが、特に騎馬の人物描写には、そのルーツにレオナルド・ダ・ヴィンチが《アンギアーリの戦い》のために残した交戦する人物素描があるとの指摘もある。一種の仮想空間ともいえるような背景描写と、リアリティーを意識した写実的な人物描写が融合した、ダリのこうした肖像画は、時に幻視的な要素を盛り込みながら、彼が好んで交友を図った上流階級の人々との幅広い人間関係の中で、1930年代以降多く描かれることとなった。
収録されているデータベース
東京富士美術館収蔵品データベース
日本・東洋・西洋の各国、各時代の絵画・版画・写真・彫刻・陶磁・漆工・武具・刀剣・メダルなど様々なジャンルの作品約30,000点の内、約2,000点を掲載。
最終更新日
2026/01/09