解説
有名な『伊勢物語』第九段、三河国八橋の情景を描いた硯箱。大胆な構図に、圧倒的なデザイン力が示されている。作者の尾形光琳(おがたこうりん)は、八橋を主題にした屏風絵の名品をいくつか残しており、このテーマは自家薬籠中(じかやくろうちゅう)のものであったと考えられる。
蓋を開けた上の段には硯(すずり)と水滴(すいてき)を収め、下の段には紙を収める硯箱です。底を除いた外側の面に、木の板をつなげた橋がジグザグと不規則に曲がりながら続き、それぞれの面にグループで咲く燕子花(かきつばた)は、数や位置に変化をつけています。モチーフの配置は大胆でありながらも、計算されたデザイン感覚がうかがえます。燕子花の葉や茎の部分は、漆で描いたのち、乾かないうちに金粉を蒔きつける「金蒔絵(きんまきえ)」によって表し、花の部分は貝がらの内側を平らに加工してはめ込む「螺鈿(らでん)」という技法を用いています。硯箱のデザインは一見斬新な印象を受けますが、その表現は伝統的な漆の工芸技術によるものです。板橋と燕子花のモチーフは、『伊勢物語』という平安時代の文学で記された愛知県東部にある八橋という場所にちなんだもの。作者の尾形光琳(おがたこうりん)は、17世紀のおわりから18世紀はじめに活躍した画家です。光琳には、八橋の情景を描いた屏風の名品も知られ、古典文学にちなんだモチーフを、洗練された感覚で捉えなおす点が特徴です。
収録されているデータベース
ColBase
ColBase: 国立文化財機構所蔵品統合検索システムは、国立文化財機構の4つの国立博物館(東京国立博物館、京都国立博物館、奈良国立博物館、九州国立博物館)と一つの研究所(奈良文化財研究所)の所蔵品を、横断的に検索できるサービスです。
最終更新日
2026/06/01