解説
右手に数珠を持ち、左手に蓮華を執る十一面観音を線刻しています。こうした鏡の表面に、神や仏の像を線刻や彩色で表わしたものを鏡像といいます。裏は秋草に流水、蝶鳥を配した典型的な平安時代の和鏡文様で、平治元年の銘文を記しており、資料的価値も高いものです。
銅製の鏡の鏡面に、十一面観音菩薩の坐像を線刻しています。鏡の背面には、日本で伝統的に好まれた文様である萩、蝶、鳥や水の流れが、鋳造(ちゅうぞう)の技法によって立体的に表されています。その文様の上に「平治元年(へいじがんねん)」という銘文が刻まれています。鏡背の形式と萩の文様構成、柔和な十一面観音菩薩の表現は、12世紀後半の様式をよく示しており、平治元年はおおよそこの鏡が制作され仏像が線刻された時期と考えられます。
この作品のように、銅製の鏡の鏡面に仏や神の像を線刻したものを「鏡像」といい、日本では10世紀ころから登場します。鏡像は厨子(ずし)に納めたり、紐を通して懸けるなどして、礼拝の対象とされました。なぜ銅製の鏡面に像を表すようになったかについては諸説があり、その一つに、日本における神と仏の信仰の融合があります。日本では、インドに由来する信仰である仏教とは別に、神に対する古くからの信仰があり、銅鏡はその神が宿るものとされました。仏教が伝来して以降、ある特定の神に特定の仏を対応させる考え方が広がり、神体である鏡に仏教の像を表すようになったのです。
この鏡像は、純粋な銅鏡の鏡面に仏像を線刻した点で、最も典型的な鏡像の例といえます。一方でおよそ同時期ころより、単なる銅板に像を線刻したものや、像を浮き彫り風に打ち出したものも作られるようになります。13世紀以降は像がますます立体的となり、円盤と像を別々に作って取りつけた「懸仏」(かけぼとけ)が主流となりました。
収録されているデータベース
ColBase
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最終更新日
2026/07/20