解説
直毛+ちょくもう+の髪や開いた両眼、下唇を噛む点は真言宗の開祖・空海+くうかい+ゆかりの姿ですが、額の冠帯+かんたい+、肩に垂れるねじれた髪束などは天台宗の僧・円珍+えんちん+が中国からもたらした形式です。立像形式の不動明王像のなかでも貴重な古い作例で、仏像の素材としては珍しいサクラ材を用いています。
仏教では、さまざまな名前、姿や形、役割をもった仏たちが登場します。明王とは「知恵と呪文の王者」という意味です。仏教の一種である密教では、「大日如来」という仏が、宇宙の中心的な存在と考えられました。明王は、その大日如来の化身で、怒りの表情や威嚇するような姿かたちを示すことで、より強く仏教の信仰をうながす役割を果たします。ですので、明王には怖い顔をしたり、体の色が赤や青であったり、武器を持つものが多いのです。その代表格が不動明王です。不動明王は、日本では平安時代9世紀以降に信仰され、彫像や絵画も数多くの名作が今に伝わっています。
この像は、不動明王です。頭髪は「総髪」というオールバックで、結わえた毛先を左肩に垂らし、両目を見開き、上の歯で下唇を噛む姿です。これは9世紀初期に空海(くうかい)という日本の僧が中国から日本へ持ち帰った「曼荼羅」(まんだら)という図に描かれる不動明王の特徴と同じで、日本で不動明王が信仰されるようになった初期の姿かたちを意識して造られています。また、9世紀から10世紀の不動明王はほとんどが座る姿ですが、この像は立った姿です。主に11世紀以降に作例の知られる立つ形式の不動明王像のなかでも、この像は古い作例であることも貴重です。
頭と体の中心を含む体幹部を一本の木材から彫り出す「一木造」で作られています。日本の仏像のほとんどは木で作られ、ヒノキやカヤの木がよく用いられます。しかしこの像の場合、サクラの木で作られていることが特徴です。サクラは、木目の密度が高くて非常に堅く、彫刻にはあまり適さないため、仏像の素材に用いられるのはとても珍しいことです。
収録されているデータベース
ColBase
ColBase: 国立文化財機構所蔵品統合検索システムは、国立文化財機構の4つの国立博物館(東京国立博物館、京都国立博物館、奈良国立博物館、九州国立博物館)と一つの研究所(奈良文化財研究所)の所蔵品を、横断的に検索できるサービスです。
最終更新日
2026/03/30