解説
慶滋保胤は、平安時代中期の貴族で文人。この書状は「僧寂心」の署名から、保胤が寛和2年(986)に出家してからのものとわかる。『伝』や『文句記』などの書物を貸し借りして書写している様子が、流麗な和様の筆致でしたためられている。
これは平安時代中期、学問や芸術などの分野で宮廷に携わっていた慶滋保胤(よししげのやすたね)という貴族が書いた書状、つまり手紙です。保胤は晩年出家をして寂心(じゃくしん)と名乗りました。この書状はその寂心の名で記されており、保胤の出家後の様子を伝えています。誰に宛てて書かれたものかはわかっていませんが、文章の内容から判断して、目上の人に対して書かれたものであることがわかります。
保胤が活躍したころは、遣唐使が廃止され、日本独自の文化が展開していく時期でした。書もこれまでの中国様式から日本独自の様式に転換していきます。今回ご紹介する作品からは、まさにその変遷を見ることができます。
文字に注目してみましょう。よく見ると、角をしっかりと取っている文字もありますが、省略や続け書きで記された書体には、丸みを帯びたやわらかい筆遣いがみえます。これまでの中国の書に倣った、力強くどっしりと落ち着いた書体を残しつつも、伸びやかで優雅な日本風の書体へと移り変わっていく様子がうかがえます。
平安時代中期のプライベートな内容を書き記した書状が名前入りで残るのは珍しく、さらに文化が移行していく時期ならではの特徴がみられるという意味でも貴重な作品です。
収録されているデータベース
ColBase
ColBase: 国立文化財機構所蔵品統合検索システムは、国立文化財機構の4つの国立博物館(東京国立博物館、京都国立博物館、奈良国立博物館、九州国立博物館)と一つの研究所(奈良文化財研究所)の所蔵品を、横断的に検索できるサービスです。
最終更新日
2026/07/20