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白氏詩巻 Selected Poems of Bai Juyiはくししかん

解説

 漢詩は平安時代の貴族にとって大切な教養でした。当時は中国の唐時代の白居易の詩集『白氏文集』が大いにもてはやされていました。この作品もその流行を受けて書き写されたものです。色変わりの美しい料紙に、8篇の詩を、美しく明るい書風で書き進めています。巻末にある奥書から、日本的な書の完成者として知られる藤原行成が47歳の時に記したと知られます。この作品は貴族の贈り物として行成が依頼により製作した書の手本なのですが、いわゆるお習字のお手本とは異なり、鑑賞を目的に作られたものです。また、紙背の継ぎ目の部分には伏見天皇の花押と呼ばれるサインがあり、もとは天皇が愛玩された作品であったことがわかります。


 淡い茶や赤紫などの色変わりの紙には、中国・唐(とう)時代の白居易(はくきょい)(白楽天(はくらくてん)、772~846)の漢詩が8篇(へん)書かれています。冒頭の詩、旧暦8月15日の夜に中秋の名月を客人と楽しんだ際の作など、いずれも白居易の詩文集『白氏文集(はくしもんじゅう)』にみられます。『白氏文集』は、平安時代に漢詩文の素養が欠かせなかった宮廷貴族のあいだで、必読の書としてもてはやされました。
 筆者の藤原行成(972~1027) は、日本独自の貴族文化が華やいだ平安時代の中ごろに、宮廷随一の書の名手として活躍しました。自筆の奥書(おくがき)から、本作は寛仁(かんにん)2年8月21日、行成47歳時の筆跡と知られます。繊細な色調の美しい料紙(りょうし)を選び、時季に合う詩などを書いて贈り物としたのでしょう。
 流麗な筆遣いの書は、墨の濃淡や線の太さが大胆かつ繊細に変化し、筆者の息遣いまでもが伝わってくるかのようです。均整のとれた文字は、墨線と余白のコントラストが際立ち、明るく優美な姿をしています。奥書には、改元前の長和(ちょうわ)という年号を誤って記したり、写経職人の筆を借りたために漢字をかたちづくる点画(てんかく)が普段と違ってよくないので笑わないでほしいと述べたり、筆者の人柄が垣間(かいま)見られます。
 藤原行成の書は、その時代を映しだすかのように典雅で柔和な趣に満ちています。最高峰の和様(わよう)の書を心行くまでご堪能いただけますと幸いです。

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2026/08/24