解説
部屋の中や灯火のあたる部分にのみ濃さを変えて色をつけ、両側の桜の種類を描き分ける繊細な表現が見どころ。派手な色を避けて墨を主とした「紅(べに)嫌(ぎら)い」の技法で上品な叙情的作品が生み出されました。しっとりとした春の夜の情景が伝わってきます。
桜が満開の春の宵、ある邸宅の塀の内と外を描いた浮世絵版画です。
黒い塀の前にくっきりと浮かび上がる通行人たち。手元の灯をたよりに、暗い夜道を歩いています。墨を主としたほとんどモノトーンのような画面です。派手な色を使わないこのような表現を「紅嫌(べにぎら)い」と言います。
作者の窪俊満(くぼ しゅんまん)は、国学者であり画家でもあった楫取魚彦(かとり なひこ)の門人で、文学とともに絵を学びました。そのため、浮世絵だけでなく狂歌、俳諧、戯作も手がけ、幅広く活躍しました。こうした文学性を重んじる人々の、渋好みの美意識が、派手さを抑えた「紅嫌い」の表現につながったようです。
モノトーンのように見える画面ですが、よく見ると、ところどころに色が使われています。なぜ、ここだけに色が使われているのでしょうか。
そう、奥に見える室内の灯りと通行人の手元の行灯、光の当たっているところだけに、色が使われているのです。暗い夜は色が見分けにくくなるもの。そんな誰にでも憶えのある経験がリアルに表わされているようです。ここで用いられている「紅嫌い」は、渋好みの趣味だけが理由でなく、夜景の表現の理屈に、みごとにマッチしています。
収録されているデータベース
ColBase
ColBase: 国立文化財機構所蔵品統合検索システムは、国立文化財機構の4つの国立博物館(東京国立博物館、京都国立博物館、奈良国立博物館、九州国立博物館)と一つの研究所(奈良文化財研究所)の所蔵品を、横断的に検索できるサービスです。
最終更新日
2026/06/08