解説
本図は、インド・中国・日本にわたる諸宗の祖師や先聖先師、合計46人を描いたもの。奥書から知られる筆者の玄証は聖教類や白描図像の書写・収集で著名な真言密教の学僧。玄証本として特に知られた一連の作例の中でも本図はその白眉といえる作例である。
12世紀、平安時代の終わりごろになると、仏教そのものだけでなく、それを伝え、ひろめて来た人々への関心も高まります。この巻物に描かれたのは、インド・中国・日本で仏教に貢献した人々の姿です。その数、46人。姿と一緒に、名前や、どんな人物でいつ亡くなったなどの情報が書かれています。時代ではなく仏教の宗派ごとにわかれているようで、6世紀ごろに禅宗をおこした達磨(だるま)、7世紀に仏教を日本に広めた聖徳太子、9世紀に真言宗を興した空海などの顔ぶれが並んでいます。
このような絵は、墨の線だけで描く「白描(はくびょう)図像」といって、仏画の下絵や設計図として描かれたものです。人物の表情や仕草が細部までよく見えるので、この絵を参考にして別の絵を描くのにも使われます。しかし、よく見ると人物の髪の毛やひげは薄墨でぬられ、唇には赤みがさしていることがわかります。このように一部分でも色をつけるのは、仲間内だけではなく、誰か高貴な身分の人に見せるため、もしくは後世に伝えるために整えられたから、と考えられます。
一番最後にある奥書(おくがき)からは、この作品が、玄証(げんしょう・1146~1222年)という僧が師匠にあたる僧、仁済(にんさい)の持っていた本を写してかいたものであることがわかります。玄証は、数多くの白描図像を集めたり、編さんしたりしていたことで知られています。しかし、自筆の作品として現存しているものは少なく、この作品は大変貴重な例です。人物たちはのびやかな線で描かれており、線の太さによって、筆が入ったところ、はらったところなど、玄証が手を動かした跡がわかります。一人一人のしぐさや表情には個性があり、当時伝わっていた各人物の特徴をうまくとらえているのでしょう。この図像をもとにして描かれた人物像もたくさんあるはずです。現在の私たちがイメージする各人物の描かれ方との違いや同じところを探してみるのも面白いかもしれません。
収録されているデータベース
ColBase
ColBase: 国立文化財機構所蔵品統合検索システムは、国立文化財機構の4つの国立博物館(東京国立博物館、京都国立博物館、奈良国立博物館、九州国立博物館)と一つの研究所(奈良文化財研究所)の所蔵品を、横断的に検索できるサービスです。
最終更新日
2026/07/20