解説
仏の悟りの智慧である般若を擬人化した菩薩像。仏の体の一部や特性を擬人化するのは密教の特徴の一つで、その意味で非常に密教的な菩薩である。6本の腕は悟りに至るための6つの実践徳目である六波羅蜜の表したものという。現存する本格的単独像は本図が唯一と思われる。
仏教では智慧(ちえ)を得ることによって仏になると考えられています。智慧とは、すべての物事や道理を正しく見極めることができる能力のことで、それを人格化したのが般若菩薩(はんにゃぼさつ)です。般若菩薩は、あらゆる仏を生み出す仏の母・仏母(ぶつも)とされていますが、これは母が子を産むように智慧が仏を生み出すと解釈するためです。
般若菩薩の姿は額に第三の目があり、六本の腕を持つなど超人的にあらわされています。六つの手はそれぞれ違う形をしており、左手の一つにはお経を書いた折り畳み式の本が載せられています。鎧を身に着けていますが、衣装の袖口にはフリルのような優美な飾りがついています。
描き方に注目してみると、青や緑といった寒色を中心に、ハイライトやグラデーションを使って明るく表現しています。輪郭線は太く、モチーフの境目が明瞭です。平安時代の仏教絵画は細い輪郭線と暖色系の明るく柔らかな色使いをベースに、同じ系統の色の明暗でぼかしを使いながら表現されます。それに対して、鎌倉時代はこの作品のように、はっきりとした線や、やや暗く沈んだ色使いで明快に表されるようになります。
般若菩薩は、平安時代初期に日本に伝わった仏教の新しい考え方、密教に登場する仏さまです。密教の中では、格の高い仏さまとして位置付けられています。曼荼羅(まんだら)という密教の世界観を図式化した中で描かれることが多く、このように単独で描かれるのはたいへん珍しい例です。
収録されているデータベース
ColBase
ColBase: 国立文化財機構所蔵品統合検索システムは、国立文化財機構の4つの国立博物館(東京国立博物館、京都国立博物館、奈良国立博物館、九州国立博物館)と一つの研究所(奈良文化財研究所)の所蔵品を、横断的に検索できるサービスです。
最終更新日
2026/07/20