解説
「地」にあたる部分がフリーハンドの格子状になっていて、外側から上下の二つの中央に向けて紺色から黄色へと色彩が段階的に変化している。そこに、反りかえった胸を矢で撃たれながらも、どこか恍惚したような蛾の擬人化された姿が「油彩転写素描」技法で「図」として描かれている。クレーが生み出したこの技法は、油絵具を塗った転写用の紙を裏返して、裏側から、原画となる素描の描線を尖筆で強く押しながらなぞり、手の圧力のかけぐあいによって転写される描線に効果を与えるというものである。線描は軽やかな感覚と静止感を与え、線描の周囲の表現はぶれを感じさせ、空気の揺れや時間のずれを感じさせている。蛾の上昇感とバランスをとるかのように線は下向きの矢印へと変化し、たわんだ格子の表現でリズムに変化を与えている。こうしてクレーは、一見詩情的に見える一枚の絵に、運動と静止に関わる抽象的な思考を共存させている。
収録されているデータベース
愛知県美術館コレクション
当館のコレクションで特に充実しているのは、国内外の20世紀美術です。世紀前半にヨーロッパで活躍したグスタフ・クリムト、パブロ・ピカソ、ピエール・ボナール、マックス・エルンストなど、戦後アメリカで活躍したモーリス・ルイス、そして欧米の美術の影響を独自に咀嚼した日本近代の画家たちから、現代の日本を代表する作家たちの作品まで、さまざまな美術動向を辿るにふさわしい優品を収集しています。 これらの作品に加え...
最終更新日
2020/07/13