解説
1880年代末頃からルノワールは古典様式の輪郭線と立体感による描写から離れ、18世紀の巨匠たちの作品を研究するなかで新たな様式を模索し、溶け合うようなやわらかなタッチと色彩の表現へと向かう。この時代はしばしば「真珠色の時代」と称されるが、ルノワールはこの時期、当時流行の衣服を着た人物像や、優雅な、ときとして奇抜な帽子をかぶる若い娘の肖像画を多く描いた。そのような肖像画はデュラン=リュエル画廊を介してよく売れた。当館所蔵の《レースの帽子の少女》も肖像画のひとつであるが、可憐な少女の透明感のある肌、溌剌とした薔薇色の頬、青い瞳、ふっくらとした唇、そして夢見るような愛らしい表情は、ルノワールの卓越した描写によって永遠に変わらぬ美へと昇華し、描き止められている。 仕立屋の父、お針子の母をもつルノワールは、幼い頃から女性の衣服に囲まれて育った。そのためか、女性を描くときのルノワールは衣服にも注意を払っており、質感を巧みに描き分けている。とくに、変化に富んだ形とさまざまな素材や装飾物がついている帽子は、ルノワールにとって格好のモティーフであったに違いない。本作品で彼は、華やかなレースの帽子を、勢いのある大胆なタッチを繊細に重ねることで見事に描き出している。このレースの帽子は、《花を飾る少女》(1890年、メトロポリタン美術館)や《花を摘む少女たち》(1891年、ボストン美術館)をはじめとするいくつかの作品にも描かれている。 帽子は、当時の女性にとっては身だしなみの一部であり必需品であったが、日よけや装飾という機能だけでなく、当時の女性が置かれた立場を示すものでもあった。キリスト教では女性の髪は性的な意味をもち、寝室以外では結い上げた髪に飾りをつけ、外出するときはかならず帽子をかぶっていたという。
収録されているデータベース
ポーラ美術館コレクション
ポーラ美術館は、2002年に神奈川県箱根町に開館いたしました。ポーラ美術館のコレクションは、ポーラ創業家2代目の鈴木常司が40数年間にわたり収集したもので、西洋絵画、日本の洋画、日本画、版画、東洋陶磁、ガラス工芸、古今東西の化粧道具など総数1万点にのぼります。
最終更新日
2023/03/28