龍谷大学図書館特別展観 「中世本願寺の文学」
龍谷大学大宮図書館 2024年度特別展観 ― 中世文学会 2024年度秋季大会開催記念 ―
目次
ごあいさつ
龍谷大学図書館長 竹内真彦
龍谷大学図書館2024年度特別展観は、中世文学会のご協力のもと、「中世本願寺の文学―『平家物語』と和歌を中心に―」をテーマに開催いたします。
以下のように、全五章構成の展観となっております。
第一章 『御書物日記』と『平家物語』の世界
第二章 勅撰和歌集と和歌注釈
第三章 歌学書と百首歌
第四章 覚如と文学
第五章 叡尊関係写本
『平家物語』のような軍記から、勅撰歌集である『新古今和歌集』、そして歌学書や第3代宗主覚如の『口伝抄』から叡尊関係書まで幅広い展示となっていますが、平安末期から室町時代末期、いわゆる「中世」に著された多くの貴重書を展示しています。お楽しみいただければ幸いです。
今回の展示の中には21『愚見抄』、22『愚秘抄』のような「偽書」も含まれています。「偽書」というと眉をひそめられる方もいらっしゃるかも知れません。しかし、偽書だからといって「重要ではない」わけでないところが面白いところです。『愚見抄』『愚秘抄』は10『新勅撰和歌集』の撰者である藤原定家(1162-1241)に仮託された書物ですが、定家の真作であると信じられた時期もあり、それゆえに後世に大きな影響を与えました。
このような状況は、書物の価値を「作る」のは、実は「書き手」ではなく「受け手」であることを示しているとも言えましょう。皆さまにも、「新しい価値」を見つけるつもりでご覧いただくのも面白いかも知れません。
最後となりますが、中世文学会を始め、この展観にあたってご協力いただきました関係者各位に心より御礼申し上げます。
序言
~激動の時代と文学~
龍谷大学文学部 安井重雄
このたび、2024年度中世文学会秋季大会が龍谷大学大宮キャンパスにて開催されるのを記念して、本学図書館が所蔵する中世文学の古典籍のうち、『平家物語』と和歌を中心に展示紹介することとなりました。
中世とは鎌倉時代から室町時代・戦国時代にかけての時代で、保元の乱(1156年)、平治の乱(1159年)、源平の争乱(1180~1185年)から始まる戦乱の時代でした。鎌倉や京都に武家政権が誕生し、社会は大きな変動に見舞われましたが、貴族や武士や僧侶から庶民に至るまで人々は階層を越えて活発に交流し、文学の世界にも多様な人々が参画した結果、時代を反映したすばらしい作品が生まれました。
戦乱を描く軍記物語はこの時代を代表するジャンルの一つです。本学は軍記物語の代表的作品『平家物語』の重要な写本一部十二冊を所蔵しており、本展観では、十二冊すべてを展示しています。
また古くから日本人の心を表現してきた和歌には、貴族だけでなく政権を担う武家や宗教者も関心を示しました。勅撰和歌集には、鎌倉幕府の執権北条泰時、政村ら、あるいは室町幕府の将軍足利尊氏、義満ら、鎌倉旧仏教・新仏教を領導する源空(法然)、高弁(明恵)、栄西、覚如(本願寺第三世)、夢窓らの歌が収載されています。
本願寺歴代宗主は、仏教典籍だけでなく、上記のような文学にも関心を示し、多くの作品を収集しました。歴代宗主が収集した蔵書を写字台文庫といいますが、本学図書館所蔵の古典籍は写字台文庫旧蔵本を基礎としています。写字台文庫旧蔵本の中に『御書物日記』という本があります。『御書物日記』は、本願寺が中世末期から近世初期にかけて収集した文学作品の蔵書目録です。そこには『平家物語』『徒然草』や数々の勅撰和歌集や歌学書の名前が見えます。当時の本願寺が文学にも深い関心を持っていたことを示しています。そこで今回、『御書物日記』に記されている作品を中心に展示を企画しました。
今回の展観をきっかけに、中世という激動の時代の中にあって、西本願寺が世の中に流布し享受された文学を通じて社会とのつながりに関心を持ち、また文学作品を後世に伝えていった様子を知っていただければ幸いです。
第1章 『御書物日記』と『平家物語』の世界
『御書物日記』は、近世初期ころに作られた西本願寺の文学関係の蔵書目録である。蔵書目録を見ると、その時期にその人あるいはその機関がどのような本に興味を持っていたかがわかる。『御書物日記』には、和歌・連歌・物語・軍記物語・随筆などの作品名が見えるが、その中に『平家物語』が見える。現在龍谷大学図書館が所蔵する覚一本『平家物語』が該当するかどうかはっきりしないが、この章では、覚一本『平家物語』を紹介するとともに、写字台文庫の旧蔵書であった『保元物語』や『増鏡』などの軍記物語・歴史物語を中心に紹介する。
第1章 展示資料一覧
へいけものがたり 12巻 12冊 応安4年(1371)沙門覚一(かくいち)跋 室町末期~江戸初期写 縦28.0×横22.5cm 請求記号021-332-12 『平家物語』は、栄華を極めた平家が、源氏との戦に敗れ、壇ノ浦で一門の大半が亡くなり、子孫が滅亡していくまでを描いた軍記物語である。後世への影響も大きく、同じ軍記物語のジャンルだけでなく、他の様々なジャンルの諸作品に影響を与えている。原型は明らかではないが、形態の異なる多くの諸本が現存している。本資料は、盲目の琵琶法師が琵琶をかき鳴らしながら語るときの台本となる「語り本系」の一方(いちかた)流に属する覚一(かくいち)本の古い姿を留める写本として重視されている。
ほげんものがたり 2巻 2冊 江戸初期写 縦25.3×横19.8㎝ 請求記号913.39-3-W-2 写字台文庫 『保元物語』は、鎌倉時代前期に成立したとされる軍記物語である。作者は未詳。平安時代末期に皇位継承をめぐる崇徳上皇す(とくじょうこうと後白河天皇(ごしらかわてんのう)の対立に加え、摂関家の地位争いも加わり内乱となった保元の乱(1156)の顛末を取り上げている。乱は、源義朝(みなもとのよしとも)、平清盛(たいらのきよもり)ら武士を用いた後白河天皇側の勝利に終わったが、力強い和漢混淆文(わかんこんこうぶん)で描かれた物語は、敗れた源為朝(みなもとのためとも)の活躍を中心におく。勇壮な軍記物語として後世の文学に影響を与えている。
へいじものがたり 3巻 3冊 江戸初期写 縦25.3×横19.8㎝ 請求記号913.39-1-W-3 写字台文庫 『平治物語』は、平治元年(1159)に起こった内乱である平治の乱を題材にした軍記物語である。平治の乱の顛末を源氏平氏の両武門の戦闘を中心に、和漢混淆文(わかんこんこうぶん)で描いた作品である。『平家物語』などとともに琵琶法師によって語られた。作者は未詳であるが、鎌倉初期から中期頃に成立したとされ、多くの伝本がある。因みに、本書は第四類金刀比羅本(ことひらぼん)系統の一本である。
ますかがみ 17巻(欠巻第5至6) 6冊 江戸初期写 縦27.9×横21.5㎝ 請求記号914.5-23-W-6 写字台文庫 『増鏡』は、南北朝時代の歴史物語である。著者は不詳だが、公卿で文化人であった二条良基(にじょうよしもと)とする説が有力。後鳥羽天皇(ごとばてんのう)誕生から後醍醐天皇還幸(ごだいごてんのうかんこう)(1180~1333)までを編年体で記している。内容は、後鳥羽上皇(ごとばじょうこう)が鎌倉幕府討幕の兵を挙げて敗れた「承久の乱(じょうきゅうらん)」と、後醍醐天皇を中心とする勢力が鎌倉幕府を倒幕する「元弘の乱(げんこうらん)」を軸として、その間の公家社会の様子や宮廷行事、公家の生活などに及んでいる。
たいへいき 40巻(存第1巻至12巻) 12冊 江戸初期写 縦 28.5×横 21.5㎝ 請求記号021-370-12 写字台文庫 『太平記』は、南北朝時代の動乱を描いた軍記物語である。作者は未詳であり、数回にわたり増補改編され、1370、1380年頃に現在の40巻になったとされている。後醍醐天皇(ごだいごてんのう)の即位から鎌倉幕府討幕、建武の新政、新政の失敗による足利尊氏(あしかがたかうじ)の謀反、後醍醐天皇の崩御、南北朝の対立、室町幕府の安定までを3部に分け和漢混淆文(わかんこんこうぶん)で記述している。 後世の謡曲などの文芸に大きな影響を与えた他、痛烈な政治批判といった社会思想も含まれている。例えば、第21巻では、新政の失敗による後醍醐天皇の凋落(ちょうらく)を述べながら、台頭した尊氏方の専横ぶりを批判している。
つれづれぐさ 存上巻 1冊 兼好(けんこう)法師(ほうし)著 室町末期写 縦 27.8×横 23.0㎝ 請求記号021-337-1 写字台文庫 『つれづれ草(徒然草)』は、鎌倉時代末期、歌人であった兼好法師(1283?~1358)が著した随筆である。序と243の章段があり、無常観に基づく鋭い人生観、世相観、美意識などが見られる。例えば、第98段には無常の認識などを説く仏教書『一言芳談(いちごんほうだん)』の抜粋などを載せる。本書は、本来上下冊の2巻であったが、第136段までを記した上巻のみが現存し、下巻を欠いている。
第2章 勅撰和歌集と和歌注釈
西本願寺歴代宗主の旧蔵書を収めた写字台文庫には、宗主が収集した勅撰和歌集や和歌の解釈を学ぶための和歌注釈書が数多く収蔵されている。この章では、『千載和歌集』や『新古今和歌集』などの勅撰和歌集をはじめ、『万葉集註釈』や『百人一首抄』などの和歌注釈書を紹介する。
第2章 展示資料一覧
しんこきんわかしゅう 20巻 2冊 源通具(みなもとのみちとも)・藤原有家(ふじわらのありいえ)・藤原定家(ふじわらのさだいえ)・藤原家隆(ふじわらのいえたか)・藤原雅経(ふじわらのまさつね)撰 天正3年(1575) 写 縦 24.5×横 16.8㎝ 請求記号021-581-2 『新古今和歌集』は、鎌倉初期に成立した8番目の勅撰和歌集である。建仁(けんにん)元年(1201)後鳥羽院(ごとばいん)の下命によって源通具らが撰し、元久(げんきゅう)2年(1205)に完成の饗宴(きょうえん)が行われたが、最終的な成立は承元(じょうげん)4年(1210)頃とされる。それまでの勅撰集とは異なり、後鳥羽院自らが撰集に深く関与し、序・詞書(ことばがき)も院の立場に於いて記され、「親撰体(しんせんたい)」の最初の勅撰和歌集となった。
しんちょくせんわかしゅう 20巻 2冊 藤原定家(ふじわらのさだいえ)撰 室町末期写 縦 25.9×横 20.7㎝ 請求記号022-545-2 写字台文庫 『新勅撰和歌集』は、鎌倉時代に成立した9番目の勅撰和歌集である。当代歌壇の第一人者藤原定家が、貞永(じょうえい)元年(1232)に後堀河天皇(ごほりかわてんのう)の下命により撰した。その後堀河天皇の崩御、前関白藤原道家(ふじわらのみちいえ)の意見による百余首の削除(後鳥羽院(ごとばいん)など承久(じょうきゅう)の乱に関係した歌人の歌と推測されている)などの過程を経て、文暦(ぶんりゃく)2年(1235)に成立した。歌数は1370首に及ぶが、鎌倉幕府3代将軍源実朝(みなもとのさねとも)をはじめ、鎌倉幕府関係者の歌が多く載せられている。
しょくこきんわかしゅう 20巻 2冊 藤原為家(ふじわらのためいえ)・藤原基家(ふじわらのもといえ)・藤原家良(ふじわらのいえよし)・藤原行家(ふじわらのゆきいえ)・藤原光俊(ふじわらのみつとし)撰 江戸前期写 縦 25.9×横 21.0㎝ 請求記号022-544-2 写字台文庫 『続古今和歌集』は、鎌倉時代に成立した11番目の勅撰和歌集である。正元(しょうげん)元年(1259)藤原為家が後嵯峨院(ごさがいん)の院宣(いんぜん)を奉じたが、後の弘長(こうちょう)2年(1262)に基家らが加えられた。特に光俊は、将軍宗尊親王(むねたかしんのう)の和歌師範という立場を背景に発言力が強かったとされている。歌数は1915首、代表的歌人は宗尊親王、藤原定家(ふじわらのさだいえ)、後鳥羽院(ごとばいん)などである。
しょくしゅういわかしゅう 20巻 2冊 藤原為氏(ふじわらのためうじ)撰 江戸初期写 縦 25.9×横 21.0㎝ 請求記号022-546-2 写字台文庫 『続拾遺和歌集』は、鎌倉時代に成立した12番目の勅撰和歌集である。『続古今和歌集(しょくこきんわかしゅう)』を撰した藤原為家(ふじわらのためいえ)の子である為氏が、亀山院(かめやまいん)の下命により撰し、弘安(こうあん)元年(1278)成立した。撰歌の範囲を、3番目の勅撰和歌集である『拾遺和歌集』の以降に限り、体裁もこれに従った。歌数は1459 首、代表的な歌人は、為家の他、藤原定家(ふじわらのさだいえ)、藤原俊成(ふじわらのしゅんぜい)、後嵯峨院(ごさがいん)などであるが、関東武士の歌も多く載せられている。
まんようしゅうちゅうしゃく 10巻(存第3至第5・第7・第9至10巻) 4冊 仙覚(せんかく)著 江戸初期写 縦 27.2×横 21.2㎝ 請求記号022-522-4 写字台文庫 『万葉集註釈』は、鎌倉時代中期に成立した『万葉集』の本格的な注釈書として最初のものである。著者の仙覚は天台宗の僧侶であるが、『万葉集』の諸本を校合し、『万葉集』の成立事情、名義・撰者などの考証を行い、全巻の難解な歌に註を加え、論理的文献的に研究している。また、現在散逸した『風土記』を引用しているため、『風土記』の資料ともなっている。
しりんさいようしょう 10巻 5冊 由阿(ゆうあ)著 江戸初期写 縦 27.4×横 21.4㎝ 請求記号022-548-5 写字台文庫 『詞林菜葉抄』は、南北朝時代の貞治(じょうじ)5年(1366)に成立した『万葉集』の注釈書である。時宗の第2代遊行上人(ゆぎょうしょうにん)である真教(しんきょう)の弟子由阿は、仙覚(せんかく)の影響を受け、『万葉集』を研究した。歌人の関白二条良基(にじょうよしもと)に招かれて京に上り、『万葉集』を講義して『詞林菜葉抄』を良基に献上した。内容は、10巻125項から成り、万葉集の地名・注釈・研究の3部に分けられているが、仙覚の注釈が多く継承されている。また、『竹取物語(たけとりものがたり)』や『富士山縁起(ふじさんえんぎ)』などにも触れられている。
くだいしょう 1帖 肖柏(しょうはく)撰 室町末期写 縦22.4×横 17.6㎝ 請求記号021-341-1 『九代抄』は、『後撰集(ごせんしゅう)』から『続後撰集(しょくごせんしゅう)』までの9つの勅撰集から秀歌を抜粋し、春・夏・秋・冬・恋・雑に部類したものである。撰ばれた歌は1500首に及ぶが、その内の531首が『新古今和歌集(しんこきんわかしゅう)』から撰ばれている。編者の肖柏(牡丹花肖柏(ぼたんかしょうはく))は、室町時代中期の連歌師・歌人であり、和歌を飛鳥井雅親(あすかいまさちか)に学び、連歌を宗祇(そうぎ)に師事し、古今伝授を受けた。また、古今伝授を堺の門人に伝えたことにより、その伝授は堺伝授と称された。
ちょくせんめいしょわかようしょうぬきがき 2巻 2冊 室町末期写 縦 27.1×横 20.7㎝ 請求記号911.208-74-W-2 写字台文庫 『勅撰名所和歌要抄抽書』は、南北朝時代中期に成立した、『万葉集(まんようしゅう)』及び、『古今集(こきんしゅう)』から『風雅集(ふうがしゅう)』までの勅撰集から名所歌を採録した『勅撰名所和歌要抄』の抜書本である。上冊に「山」「嶺」「嵩」以下「海」、下冊に「浦」「渡」以下「宮中」「城外(別)業」に部類し、国ごとに名所歌を記す。和歌には入集されている歌集名を示す集付(しゅうづけ)を記す。『御書物日記(ごしょもつにっき)』に「一勅撰名所和哥抄 二冊紺表帋」と見えるのが本書か。
じさんかちゅう 1冊 明応5年(1496)写 縦 26.1×横 22.1㎝ 請求記号021-357-1 写字台文庫 『自讃歌注』は、新古今歌人17人各10首の秀歌選『自讃歌』の注釈書で、いわゆる木戸孝範(きどたかのり)注とされるものである。ただし、冷泉家時雨亭文庫(れいぜいけしぐれていぶんこ)から孝範活躍期以前に遡る伝本『自讃歌伝』が発見されており、本注の成立は15世紀前半に遡る可能性がある。なお『御書物日記(ごしょもつにっき)』には「一自讃哥 壱冊」が3点見えるが、うち1点に「一自讃哥 壱冊 上ノ冷泉為広」とあり、本書との関連が注目される。
ひゃくにんいっしゅしょう 1冊(仙洞句題五十首(せんどうくだいごじゅっしゅ)・和歌集・宝暦十年文月和歌三神奉納和歌(ほうれきじゅうねんふみづきわかさんじんほうのうわか)・宝暦十二年卯月十九日兼題詩歌(ほうれきじゅうにねんうづきじゅうくにちけんだいしいか)合冊) 鳥居小路経厚(とりいこうじつねあつ)著 江戸初期写 縦 26.8×横 20.6㎝ 請求記号911.206-39-W-1 写字台文庫 『百人一首抄』は、『小倉百人一首』について、戦国時代の青蓮院の坊官であり、書家であった鳥居小路経厚が注釈を施したものである。末尾には「此百首御聞書令拝見畢申上之旨大底無/相違者也/享禄三年二月日/法印経厚判」の奥書を有する。なお、本書は紙背に薬に関する書籍が書写されている。
しじちゅう 1冊 宗祇(そうぎ)著 江戸前期写 縦 27.8×横 21.0㎝ 請求記号911.206-42-W-1 写字台文庫 『詞字注』は、室町時代後期の連歌師であり、古典学者である宗祇が、平安時代初期から鎌倉時代初期までの8つの勅撰和歌集である『八代集』から322首を抜き出して加注したものである。抜き出した歌は、春・夏・秋・冬・恋・雑に部類されている。本書は、「宝暦十二年壬午年祖師手向(ほうれきじゅうにねんじんごのとしそしたむけ)」「京極黄門手向(きょうごくこうもんたむけ)」「頓阿手向(とんあたむけ)」など合計11点を合綴した書物『詩歌書留』の中に綴じられている。『詩歌書留』は、本願寺歴代宗主の旧蔵書である写字台文庫の書物であり、本願寺宗主の歌の造詣を知ることができる資料である。
第3章 歌学書の世界
西本願寺歴代宗主は、勅撰和歌集などを収集した他、和歌への造詣を深めるために歌学書や百首歌なども収集して、自らが歌を詠む際の参考としていた。この章では、歌学書である『和歌初学抄』や『愚見抄』などの他、作法書である『和歌会席』、歌人三条西実隆(さんじょうにしさねたか)の百首集である『前内相府実隆公百首集(さきのないしょうふさねたかこうひゃくしゅしゅう)』『永正三年百首』などを紹介する。
第3章 展示資料一覧
ぐけんしょう 1冊 [伝藤原定家(ふじわらのさだいえ)著] 室町後期写 縦 27.0×横 19.9㎝ 請求記号021-343-1写字台文庫 『愚見抄』は、鎌倉時代後期に成立したとされる歌学書である。内容は、歌のあるべきさまを初学者向けに説き、幽玄躰(ゆうげんてい)・長高躰(ちょうこうてい)・有心躰(うしんてい)など詩歌の十躰とその他の躰の解説などが記されている。藤原定家著とされたが、定家に仮託した偽書であり、同じく定家仮託の偽書としては『愚秘抄(ぐひしょう)』より早く成立した。本書は、弘長(こうちょう)2年(1262)の藤原為氏(ふじわらのためうじ)の奥書を有するが、他の『愚見抄』諸本に見えないもので、『愚秘抄』の為氏奥書との関係が指摘されている。
ぐひしょう 1冊 [藤原定家(ふじわらのさだいえ)著] 室町後期写 縦 24.9×横 17.6㎝ 請求記号021-572-1 『愚秘抄』は、鎌倉時代後期に成立したとされる歌学書である。内容は、歌の稽古の次第や修辞論などに言及している。著者を藤原定家に仮託した偽書であり、上下2巻に分かれ、上巻を鵜本(うのもと)、下巻を鵜末(うのすえ)と称した。鵜鷺系偽書(うさぎけいぎしょ)の一つである。但し、定家の真作として享受されたことがあり、和歌・連歌・能楽論などに大きな影響を与えた。
ばくでんしょう まんようしゅうそうもくいみょう 1冊 源俊頼(みなもとのとしより)撰 江戸前期写 縦 25.0×横 20.4㎝ 請求記号911.101-30-W-1 写字台文庫 『莫伝抄』は、「加賀御種(かがおんたね)」以下の草木異名を詠み込んだ和歌及び、次に「十二月異名(じゅうにがついみょう)」を詠み込む和歌を掲げた異名和歌集である。室町時代前期の成立と見られるが、撰者を源俊頼に仮託している。俊頼は、平安時代後期の代表的歌人で、藤原基俊(ふじわらのもととし)とともに第一人者として活躍した。本書は、『御書物日記(ごしょもつにっき)』に「一莫伝抄 一冊」と見えるが、『莫伝抄』の後に、「一 宮 八雲第五」と記して『八雲御抄(やくもみしょう)』第五名所部の「宮」と「里」の項目を抜粋して記している。
たいこうしょしん 1冊 [藤原基俊(ふじわらのもととし)著] 江戸初期写 縦 27.0×横 21.8㎝ 請求記号021-392-1 写字台文庫 『大綱初心』は、『和歌無底抄(わかむていしょう)』や『一子伝(いっしでん)』などとも称される歌論書である。著者は、鳥羽天皇(とばてんのう)・崇徳天皇(すとくてんのう)時代に歌壇の指導者的立場であった藤原基俊とするが、基俊に仮託した偽書である。成立は鎌倉時代後期とされ、同じく基俊に仮託した偽書である『悦目抄(えつもくしょう)』の系統に属するとされている。本書の巻末奥書には室町幕府9代将軍足利義尚(あしかがよしひさ)の花押があり、義尚の所持本であったことが指摘されている。
わかかいせき 1冊 室町後期写 縦 28.2×横 21.8㎝ 請求記号021-380-1 写字台文庫 『和歌会席』は、清原宣賢(きよはらのぶかた)写の和歌会席作法書である。内容は、全体に一つ書きの体裁で28条に分かれ作法が記されているが、藤原定家(ふじわらのさだいえ)著『和歌書様(わかしょよう)』・『和歌会席次第(わかかいせきしだい)』などからの引用が随所に見られる。清原宣賢は室町時代後期の学者であり、『伊勢物語(いせものがたり)』について公卿の三条西実隆(さんじょうにしさねたか)に師事したが、『和歌会席』の著者については未詳である。
しげんようりゃく 1冊 清原宣賢(きよはらのぶかた)撰 室町後期写 縦 27.2×横 21.7㎝ 請求記号021-344-1 写字台文庫 『詞源要略』は歌語辞書であり、『八雲御抄(やくもみしょう)』等を資料として歌語を収集し、「春」「夏」「秋」「冬」「天象」「時節」「地儀」「居所」「所」「国名」「草」「木」「鳥」「獣」「虫」「魚」「人倫」「人事付人躰」「衣食」「雑物」「(歌枕)」に部類している。なお、著者の清原宣賢は、『資源要略』の他に、いろは分類と「天地」「時節」などの意義分類を併用した辞書『塵芥(じんかい)』なども著している。
てにはたいがい 1冊 (勅撰百首進上口伝(ちょくせんひゃくしゅしんじょうくでん)・烏丸資慶卿口伝(からすますけよしきょうくでん)・弘資抄(ひろすけしょう)・清水谷読方(しみずたによみかた)・綾小路手尓葉(あやのこうじてには)合冊) [伝藤原定家(ふじわらのさだいえ)作・藤原為家(ふじわらのためいえ)授] 江戸後期写 縦 27.8×横 19.5㎝ 請求記号815-41-W-1 写字台文庫 『手尓葉大概』は、漢文体で書かれた語学書であり、「てにをは」(助詞・助動詞)の用法を説いた書である。藤原定家が子息の為家の為に書いたという跋文があるが、仮託されたものである。室町時以降に成立したとされる。本書は、後宇多院(ごうだいん)著『勅撰百首進上口伝(ちょくせんひゃくしゅしんじょうくでん)』といった歌書など5篇と合冊されている。
さきのないしょうふさねたかこうひゃくしゅしゅう 1冊 江戸前期写 縦 27.5×横 20.8㎝ 請求記号022-576-1 写字台文庫 『前内相府実隆公百首集』は、公卿・歌人であり『源氏物語(げんじものがたり)』『伊勢物語(いせものがたり)』を講釈した三条西実隆(さんじょうにしさねたか)の百首集である。「百首」とは百首を単位として詠まれた和歌であり、作者は単独の場合も複数の場合もある。本書は、冒頭の目録に21種の百首を掲げるが、そのうち前半の12種の百首を収載している。『私家集大成(しかしゅうたいせい)』「実隆」解題によると、本書は、版本『雪玉集(せつぎょくしゅう)』にかかわる定数歌百首集の諸本のうち、「板本と配列を異にする異本系写本」に分類されている。
えいしょうさんねんひゃくしゅ 1冊 江戸前期写 縦 27.6×横 20.9㎝ 請求記号022-571-1 写字台文庫 『永正三年百首』は、公卿・歌人である三条西実隆(さんじょうにしさねたか)の百首集で、『前内相府実隆公百首集(さきのないしょうふさねたかこうひゃくしゅしゅう)』の目録に記載されている21種の百首の内、後半部分に相当する。内容は、「永正三年五月十八日以来家着到(えいしょうさんねんごがつじゅうはちにちいらいいえのちゃくとう)」「永正四年四月廿日以来家着到七百首(えいしょうよんねんしがつにじゅうにちいらいいえのちゃくとうひちひゃくしゅ)」「詠百首和哥桑門堯空(えいひゃくしゅわかそうもんぎょうくう)」(「詠百首和哥」は5首のみの書きさし)などの10種の百首を収める他、34首の定数歌「三百卅首題内卅四首(さんびゃくさんじっしゅだいうちさんじゅうよんしゅ)」を収載する。
さいおんじしょうこくひゃくしゅ / ふじわらのさだいえさんびゃくしゅ 1冊 近衞前久(このえさきひさ)詠 室町末期写 縦 24.0×横 16.8 請求記号022-511-1 写字台文庫 『西園寺相国百首 / 藤原定家三百首』は本書外題(後補)による書名である。内容は、安土・桃山時代の公卿であり、関白、太政大臣であった近衛前久が、鷹詞(たかことば)(鷹を使う人が用いる特殊な用語)について詠んだ百首である『龍山公鷹百首(りゅうざんこうたかひゃくしゅ)』の零本である。跋文によると、前久(龍山)が西園寺相国鷹百首歌ならびに中納言藤原定家の鷹の歌三百首を見た想いを百首の歌に表したとしている。外題(後補)は跋文を読み誤ったものと思われる。
えいひゃくしゅわか(しょうみょういんえいひゃくしゅわか) 1冊 三条西公條(さんじょうにしきんえだ)詠 元和8年(1622)写 縦 26.8×横 20.8㎝ 請求記号021-612-1 『詠百首和歌』は、三条西公条が詠んだ百首和歌である。表紙題は『称名院詠百首和歌』、扉題は『称名院右禅府百首(しょうみょういんうぜんふひゃくしゅ)』である。三条西公条は実隆(さねたか)の次男であり、兄の出家により家督を継いだ。父実隆をはじめ諸家について学び、文化人として重んじられた。因みに『源氏物語』に関する実隆の口述を整理筆録した『源氏物語細流抄(げんじものがたりさいりゅうしょう)』の草稿本は、本学に所蔵されている。
第4章 覚如と和歌
本願寺第3代宗主覚如は、歴代宗主の中でも和歌への造詣が深く、自ら詠歌する他、『閑窓集(かんそうしゅう)』という歌集を編纂している。この章では、覚如の口述である『口伝鈔』や覚如の伝記である『慕帰絵詞(ぼきえことば)』などを紹介するとともに、第8代宗主蓮如の孫である顕誓が詠んだ百首である『光闡百首(こうせんひゃくしゅ)』などを紹介する。
第4章 展示資料一覧
くでんしょう 3帖 覚如(かくにょ)(宗昭(そうしょう))著 南北朝時代写 縦 23.5×横 16.1㎝ 請求記号021-548-3 『口伝鈔』は、元弘(げんこう)元年(1331)に行われた親鸞(しんらん)聖人の報恩講(ほうおんこう)で、本願寺第3代宗主覚如が口述した浄土真宗の教義の肝要について、門弟の乗専(じょうせん)が書きとったものである。本書は乗専本系統の一本であり、筆跡から覚如の門弟乗専の書写とされるが、中巻の一部は江戸時代の補写である。もと摂津小浜の豪摂寺(ごうしょうじ)所蔵(上巻末と中巻末に「豪」の字と花押あり)であり、その後、兵庫県川西市火打(ひうち)勝福寺の所蔵を経て、龍谷大学図書館へ寄贈された。上巻裏表紙見返しに「願主釈円性」とある。
くでんしょう 3帖 覚如(かくにょ)(宗昭(そうしょう))著 室町中期写 縦 22.5×横 14.9㎝ 請求記号021-179-3 写字台文庫 『口伝鈔』は、元弘(げんこう)元年(1331)に行われた親鸞(しんらん)聖人の報恩講(ほうおんこう)で、本願寺第3代宗主覚如が口述した浄土真宗の教義の肝要について、門弟の乗専(じょうせん)が書きとったものである。その後覚如が改訂して書写したことにより、覚如本系統と乗専本系統の二系統に分かれるが、本書は覚如本系統の伝本。上巻と下巻とに覚如自筆本に記す康永(こうえい)2年の本奥書がある。
ぼきえことば 1冊 慈俊(じしゅん)撰 室町中期写 縦 25.2×横 19.3㎝ 請求記号021-237-1 写字台文庫 『慕帰絵詞』は、本願寺第3代宗主覚如(かくにょ)の帰寂を慕って作られた伝記絵巻である。撰文は覚如の子である慈俊が著し、絵は、南北朝時代の宮廷画家藤原隆章(ふじわらのたかあきら)らの筆による。本書は詞書(ことばがき)のみの写本であるが、巻5第3段以降は覚如の和歌に関する事績が多く記されている。前表紙右下に「釈実従」と墨書があることから、蓮如の末子実従(じつじゅう)の所持本であると考えられる。
さいしゅきょうじゅうえことば 2帖(存第1巻・第6巻) 乗専(じょうせん)撰 室町中期写 縦 24.7×横 15.6㎝ 請求記号021-210-2 『最須敬重絵詞』は、本願寺第3代宗主覚如(かくにょ)の門弟である乗専が文和(ぶんな)元年(1352)に著した覚如の伝記である。全7巻28段であったとされるが、現存の諸本は第3巻・第4巻を欠く。本書は第1巻・第6巻のみを残す。西本願寺の指図書(さしずしょ)の影写(江戸時代末期書写)から、絵巻(現存せず)が制作される予定であったことが分かる。
じょうらくだいしゅろうのういちごき 1冊 慈観(じかん)編 写本 縦 24.3×横 19.1㎝ 請求記号021-253-1 写字台文庫 『常楽台主老衲一期記』は、本願寺第3代宗主覚如(かくにょ)の長男存覚(ぞんかく)の自叙伝であり、存覚による口述を子の慈観が筆録したものである。本奥書によると、原本は享禄(きょうろく)の頃(1528~1532)に焼失したが、焼失以前に顕誓(けんせい)が原本から主要部分を抜き出して抄録本を作成したとある。現存の伝本は全て抄録本である。存覚は覚如の補佐をして門徒の教化にあたり、教学に於いて親鸞(しんらん)の『教行信証(きょうぎょうしんしょう)』の注釈書である『六要鈔(ろくようしょう)』を著すなど教団の基礎の確立に寄与した。
しょしんほんかいしゅう 2帖 存覚(ぞんかく)著 室町後期写 縦 19.8×横 13.5㎝ 請求記号021-199-2 『諸神本懐集』は、元亨(げんこう)4年(1324)本願寺第3代宗主覚如(かくにょ)の長男存覚が、浄土真宗仏光寺派の基礎を築いた了源(りょうげん)の求めにより著したものである。本地垂迹説(ほんちすいじゃくせつ)を受け入れ、真宗における神祇に対する立場を明らかにしようとしたものである。諸神と阿弥陀仏の関係を示す箇所において、日吉聖真子(ひよししょうしんじ)の和歌「チハヤフルタマノスタレヲマキアケテ念仏ノコへヲキクソウレシキ」(『玉葉和歌集』所収)を引用している。
にょにんおうじょうききがき 1帖 存覚(ぞんかく)述 南北朝時代写 縦 23.0×横 15.1㎝ 請求記号021-209-1 『女人往生聞書』は、本願寺第3代宗主覚如(かくにょ)の長男存覚が、『諸神本懐集(しょしんほんかいしゅう)』と同じく了源(りょうげん)の求めに応じて著したものである(『浄典目録(じょうてんもくろく)』)。制作時期については元応(げんおう)2年(1320)、元亨(げんこう)4年(1324)の二説がある。内容は、阿弥陀仏の女人往生の願の意義を明らかにするものである。女人も阿弥陀仏の本願によって往生できると説き、念仏を勧めている。本書は筆跡から、覚如の門弟乗専(じょうせん)の書写と考えられている。
こうせんひゃくしゅ 1冊 光闡房顕誓(こうせんぼうけんせい)詠 室町末期写 縦 28.7×横 21.6㎝請求記号021-227-1 『光闡百首』は蓮如(れんにょ)の孫である光闡房顕誓の詠んだ百首である。本文中に「和歌ノ道マテモカタリ出タマヒ逍遥院内府(しょうよういんないふ)ノ御点ナト申ウケ侍シ古ノ事マテヒトリコトシテカキツケ侍ルナラン」とあり、顕誓は一時期、公卿・歌人である三条西実隆(さんじょうにしさねたか)から歌の添削を受けていたことが指摘されている。蓮如の三男蓮綱(れんこう)室と実隆室が姉妹であったことが背景にあると思われる。
第5章 叡尊関係写本
叡尊は、鎌倉時代中期の律宗の僧であり、西大寺の中興の祖とされている。「叡尊関係写本」は、叡尊による法要の次第を記したものである。龍谷大学図書館には、「叡尊文書」と「叡尊関係資料」の2つの写本群が所蔵されており、今後の研究が俟たれる。今回、日本中世の貴重な資料の1つとして紹介する。
展観情報
★対面展観
龍谷大学図書館2024年度特別展観
― 中世文学会 2024年度秋季大会開催記念 ―
中世本願寺の文学 ~『平家物語』と和歌を中心に~
開催期間 : 2024年10月18日(金)、10月21日(月)~10月27日(日)
開催時間 : 10:00~17:00 (最終入場 16:30)
開催場所 : 龍谷大学大宮キャンパス 本館1階 展観室
アクセス : 大宮キャンパスへのアクセスページをご覧ください。
ご来場について :
・入場は無料です。
・学内・学外の方いずれも事前予約は不要です。
・駐車場はありません。公共の交通機関をご利用ください。
・最新情報は図書館HPやX(旧Twitter)にてご確認ください。
★ジャパンサーチギャラリー
龍谷大学図書館2024年度特別展観 (オンライン版)
― 中世文学会 2024年度秋季大会開催記念 ―
中世本願寺の文学
開催期間 : 2024年10月18日(金)より公開中!
関連リンク
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