双六の世界
館長あいさつ
ご来館ありがとうございます。こちらのギャラリーでは、私の選んだ双六(すごろく)を展示しています。デジタル時代のオンラインゲームなどより古風ながら、いまだに親しみやすい遊びとして知られる双六ですが、古くからそのときどきの世相を映して様々な双六があります。皆さんが普段目にしないような珍しいものもあると思いますので、是非ご覧ください。
掲載 双六 年表
この展示について
双六は長い歴史のある遊びで、「ふりだし」からサイコロを振ってコマに進み、「上がり」を目指すというのが共通的な特徴です。(二人対戦型のボードゲームである盤雙六も「すごろく」と読みますが、異なるタイプのゲームで、今回は「上がり」を目指して多人数でも遊べる「絵双六」について取り上げます。以下では、単に双六と書いて絵双六を指します。)
双六は、遊び道具ではありますが、そこに描かれる絵や記述内容はさまざまで、教育や広告の目的に用いられることもあり、その時代や社会での考え方や流行を反映したものがみられます。特に、ゴールである「上がり」のところには、良いこと・夢・あこがれの対象といったものが示されていることがあります。そのため、一つの紙面に一覧できるように示された双六を観ることで、双六が作られた状況や当時の人々の感覚などについて多くの想いを巡らせることが出来て興味深いものです。
双六は古くから日本のみならず類似したゲームが外国にもありますが、今回はジャパンサーチを用いての展示ということで、日本の双六、特に、浮世絵の技術の発達により双六の絵が鮮やかに描かれるようになった江戸時代以降のものを展示します。ジャパンサーチ経由で詳細画像を見ることが出来て面白いと感じられるものを選んでいます。
- [水滸伝豪傑双六他]
徳川宗敬氏寄贈,東京国立博物館
<p>絵双六は大型の紙に区画をもうけて絵を描き、振り出し(出発点)から上がり(到達点)まで、賽の目によって駒を進める。富や跡継ぎに恵まれて長生きするという出世双六や、東海道53次をたどる道中双六など、様々な趣向のものが工夫された。(旧題箋)<br /></p>
館長からの一言 (*リンクの表題部が水滸伝豪傑双六他、となっていますが中の画像は武藝立身舘雙六 https://www.kumon-ukiyoe.jp/ukiyoe/44826/)
一つ目は、製作が幕末期になっているもののいまだ武士の時代の双六で、武士の立身出世に必要な武術やその他の学芸が描かれていて、文武両道が示されています。ふり出しは、下方の「稽古ふりはじめ」で、上りは一番上に殿様から「御褒美」を受ける場面が描かれていて、武士の成功がどのようなものとされていたかが見て取れます。剣などの武術だけでなく、算術のような座学で学ぶ教養も多数示されていて、正に文武を共に修めるべきということがテーマであったことがうかがえます。江戸時代後期、良い武士とはどのようなものであるとされていたかの資料として、選びました。
- 東海道中名所雙録
二代目歌川広重(喜斎立祥),金鱗堂
館長からの一言
二代目歌川広重の作とされる、東海道五十三次を斜め上空からの視点で俯瞰して描いた双六です。ふり出しは江戸日本橋で、上りは奥に示されている京都になっています。富士山が真ん中にあり、各地の様子が細かく描かれています(細かいと言えば、道の上に旅人たちも蟻のように小さくたくさん描かれています)。江戸時代では各地の様子が一般の人々にもある程度知られていて、旅をしてみたい人や実際に行かなくても様子を見てみたい人が居たために旅行ガイドのように各地をきれいに示したこのような双六が人気があったものと思われます。
コマが細かく分かれていて絵の様子がごちゃごちゃ立て込みがちな双六ですが、こちらは全体が一つの絵画作品のように美しく見えます。浮世絵と言えば、東海道のイメージでもあり、旅路と双六の相性の良さからもこれは紹介したいと思い選びました。
- 教育勅語雙六
不詳,金港堂書籍会社
館長からの一言
時代は変わって明治に入り、明治政府により教育勅語が1890年に公表されたのを受けて、当時の子供達に教育勅語に親しませるツールとして作られた国策広報的な双六です。ふり出しは、教育勅語を読み上げる奉読式の絵から始まっていて、上りには万世一系とされる天皇家の歴史から日本書紀にある神武天皇が描かれています。歴史的な逸話などに触れることから武士や和装の人の姿が多く描かれていますが、右上の蒸気機関を考案したワットや、小学生を教える教師などに、近代化の様子が絵からも見て取れます。教育勅語自体は、天皇の勅語であって、細かいことを丁寧に述べている訳ではなく、専門家の間でも解釈が分かれるようなものとされています。(説明の例としてwikipedia:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%99%E8%82%B2%E3%83%8B%E9%96%A2%E3%82%B9%E3%83%AB%E5%8B%85%E8%AA%9E)
そのような難しいものを、明治期の子供に少しでも親しませて周知するには、双六というビジュアル込みの教材が有益と考えられたと思われます。この双六では、忠君愛国・孝行・兄弟の和・朋友の信・謙遜・博愛・学問の勉励などの徳目が絵と例示付きで説明されています。
天皇制を頂く近代国家になることを追求した明治期の象徴的な双六と思い選びました。
- 朝日の光り 日露戦争双六
竹村秋峰
館長からの一言
1905年の元旦に、大阪朝日新聞が発行した双六。日露戦争が描かれていて、ふり出しは、右下のロシア・日本の協商断絶、から始まり、戦争に勝って大祝賀という中心部が上りになっています。日露戦争は、1904年2月に開戦し1905年9月に正式に休戦となったので、発行時点ではまだ戦争中で、有名な旅順要塞の戦いも終わってはいません。しかし、全体的に明るいトーンで戦勝を前提として作られており、戦争の辛さといったものは目立たず、上りでは「朝日の光りは万々歳」となっています。当時の人々の必勝を願う心情にウケるものを作ったということなのかと思われます。
近年では、反戦・リベラル的な姿勢とも言われる朝日新聞ですが、当時はメディアとして人々の戦意高揚の材料を提供していたこと示す資料でもあると思い選びました。
- 買い物双六
画:川端龍子、案:星野水裏,実業之日本社発行 「少女の友」正月号付録。
大正時代の雑誌の付録として作られた双六。大正時代は、「大正ロマン」と言われるように洋風化・近代化が一般に広まっていった時代と言われます。そういった中で、上の例にあった武士の立身出世といった古い時代のものと異なる、人々が楽しんだり夢見たりする娯楽がテーマの双六が増えました。この双六は、家族連れが洋風の五階建て(当時はそのような建物は少なかった筈です)のデパートに買い物に行く設定で作られ、店内には様々な商品などがきれいに描かれています(よく見ると、エレベーターで階を飛ばして進むルートもあります)。上りは、デパートの屋上から周りを眺めるような場面になっていて、このような豊かさがあこがれの対象であったものと思われます。この双六が作成された1914年、現在も改修して用いられている赤レンガの東京駅が開業したということです。
「モダン」とされる大正時代のはじまりを感じられるものとして選びました。
- 日支事変 皇軍奮戦 双六
不詳,綱島亀吉
館長からの一言
1938年作成、日中戦争を描いた、いかにも戦意高揚を念頭にした様子の戦争双六。盧溝橋事件以降の戦争の拡大に応じた戦場の様子が、日本軍を主体に勇ましく描かれています。このように日本軍が優秀で強く描写される双六などの作品は、実際の状況が異なったとしても1945年の終戦まで多数が作成され続けたのは皆さんのイメージ通りと思われます。この双六のふり出しは「進軍」、上りはどこかの戦場での勝利の場面と思われる「皇軍万歳」になっていますが、上記の日露戦争での戦争全体に勝利して市民が大祝賀というほど楽観的な場面は無いのは、終わりの見えない総力戦が続くことが何がしかは感じられていたからでしょうか。戦争に進んでいった時代の典型的と思える双六として選びました。
- 野球狂双六
画:河島ミツヒロ,朝日出版社発行
館長からの一言
様々な犠牲を伴った戦争が終わると、戦争のない生活が戻り違ったテーマの双六も様々現れます。この双六は、敗戦から約7年とそれほど長くは経っていない時点の発行ですが、人々が野球を楽しむ様子がアクティブに描かれています。朝鮮半島では朝鮮戦争が行われていましたが、日本国内は戦乱とは離れており、むしろ「朝鮮特需」で戦後復興が加速したとされる時代です。日米の戦争中は、野球の用語も英語でなくする言い換えがあったと聞きますが、この双六では英語ベースの用語がとっくに用いられているようです。プレイボールでふりだし、上りは勝って優勝旗獲得の場面。戦うと言っても命を取り合うのではなく、あくまでスポーツでの勝負を愉しんでいるというのは平和のありがたさです。
漫画家の河島ミツヒロ氏による作画がマンガらしい独特のコミカルな味を出していて、野球狂とあるように、ちょっと「狂」を感じる位な目の表情などに魅力を感じて選びました。
- 専門職業飛廻寿語六録 (クールジャパンビジネス・プロフェショナルとびまわりすごろく)
林デザイン事務所,築地双六館 ワークス研究所
館長からの一言
一気に現在に近付いて、2005年の双六。それでも約20年が経過していますが、ニートやフリーターといった今でも耳にする表現がありますし、挙げられている職種も、今も人々がそのような仕事に就いているものが多々ありそうです。就職情報や人材に関するビジネスを主とするリクルートの研究所の制作で、学校を卒業し就職しようとするところがふり出しです。紙面の右側は、就職が決まらない・働かず引きこもり(NEET)などハードモード、左側は良い経験が重なり成功に近付くゾーンで、上りは数種類の職業上の成功者(プロ)になることが示されています。技術的な仕事であれ、芸術系の仕事であれ、プロになりたいという意欲と学びが成功への鍵になることが示されているようです。
実際に職業に就くのはまだ先のことと思っていますが、このようなことも意識して分野はともあれプロと認められるようになっていきたいという自戒を込めて選びました。
本ギャラリーをご覧いただきありがとうございました。
今回の展示をご覧になって、双六の世界に興味が深まれば嬉しいです。ここで展示した双六は、多種多様な双六のうちのごく一部です。他にもジャパンサーチなどのオンライン上で参照することもできますが、例えば下記のような双六に関係するイベントもあってそれぞれに異なる双六に接することもできますので、チェックしてみてください。
双六関連イベントなどについて
「浮世絵すごろく THE WORLD」展 https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/bunkazai/press/20251218ukiyoekan-ukiyoesugoroku.html
「未来のモビリティつくっちゃおう! ~ものづくりすごろく~」 https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202602184381.html
「ハウすごろく」(オンラインゲーム キャンペーン) https://comeon-house.jp/activity/sixth-anniversary/
参考文献
吉田修/山本正勝 (2004年) 「双六」 (株)文渓堂
双六読書会・小さな靴あと 「双六の歴史」 https://www.rawace.org/pdf/kouza_sugoroku1.pdf (参照2026-02-03)








