佚名 源氏物語梗概書
巻名を見出しとして、和歌を中心に源氏物語の梗概を記したものである。本文には複数段階の転写を経た痕跡が認められるが、現在のところ、広島大学図書館蔵本(国文4064N)以外に伝本の存在は確認されていない。外題は剥落が著しく判読不能であるため、整理書名として『佚名 源氏物語梗概書』としている。上・中・下巻から成り、上巻は桐壺から朝顔までの20帖、中巻は少女から竹河までの24帖、下巻は橋姫から夢浮橋までの10帖によって構成される。但し、鈴虫は見出しを立てず、横笛に含められている。本書の梗概化は、陽明文庫本等に近い別本の本文に依拠して行われている。その方法は、原典本文に新たな辞句を補うのではなく、省略箇所の前後の本文を接続し、文脈の通った文章に再構成するというものである。源氏物語の梗概を記した書は数多く存在するが、本書の最大の特色は、行間や欄外の注記を含め、作中和歌を全て収載している点にある。また行間には引歌に関する注記も多く見られ、世尊寺伊行(せそんじこれゆき、?~1175)の『源氏釈』との関わりが想定されることから、初期の源氏物語梗概書として注目される。
広島大学図書館蔵本(国文4064N)奥書や識語等がなく、書写者、書写年時、伝来いずれも不明である。近世中期頃の書写と推定される。宮田和一郎氏旧蔵本。写本3冊。3冊とも剥落が激しく外題は判読できない。かろうじて第3冊目の題簽上部に「源」の字らしい文字が見える。元々8冊本であったのを合綴して3冊本に仕立て直したと思われる。
【参考】
稲賀敬二・妹尾好信校『佚名 源氏物語梗概書(広島大学蔵) 上(中・下)』「翻刻平安文学資料稿」第3期別巻1~3(1999~2000年、広島平安文学研究会)
伊井春樹編『源氏物語注釈書・享受史事典』(2001年、東京堂出版):「源氏物語梗概書」