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世尊寺伊房 詞書[他]「源氏物語絵巻. [2]」和田正尚 模写,1911 / 国立国会図書館デジタルコレクション

Confections and literature

Poems about sweets from Manyo poets

餡や砂糖、米や小麦を使った菓子が作られるようになる前は、菓子(果子)と言えば果物のことを指しました。

日本最古の歌集である万葉集には、モモ・柿・梅・スモモ・梨・枇杷・橘・ヤマモモ・棗(なつめ)・アケビなど、日本に古くからある果樹を題材にした歌がみられます。

特に橘は、本書によれば、聖武天皇(701-756)に「橘者果子之長上、人之所好(橘ハ菓子の長上、人ノ好ム所ナリ)」と言わしめるほど、最上級の菓子として愛されました。

吾妹子(わぎもこ)に 逢はず久しもうましもの 阿倍橘(あべたちばな)の羅(こけ)むすまでに

(いとしいあの子に逢わずに久しくなったことよ。あのすばらしい阿倍橘の木に苔が生えるまでも。)

万葉集

奈良時代の代表的な歌人・大伴家持(おおとものやかもち:718-785)は、この伝承を題材にして「橘の歌一首(万葉集4111番)」を詠み、春夏秋冬を通して葉が落ちない橘に、永遠性や繁栄といったイメージを重ねました。

(出典:毛利梅園『草木実譜』,写)

Heian aristocrats and their favorite sweets

平安時代の文学や随筆には時折菓子らしきものが登場します。

『源氏物語』宿木で、女二の宮から御前へ粉熟(ふずく)という菓子を差し上げる場面がある。源氏物語の注釈書である本書にその製法があり、米・麦・豆などの穀物を粉にして、青・黄・赤・白・黒の五色に色付けし、餅に仕立てた菓子とあります。

5月5日の端午の節句を迎える準備をしているときに「青ざし」が届けられたとあります。この青ざしは、青麦を炒り、臼でひいて糸状にひねった菓子と言われています。
(出典:藤原隆能画『源氏物語絵巻』柏木)
(出典:『夏山雑談』)※江戸中期の国学者・小野高(1720-1799)の随筆

Rice cakes in old Edo

古くは主に貴族の菓子として食されていた餅は、江戸時代に餅菓子として庶民の間で日常的に親しまれるようになりました。

江戸時代の年の暮れ、庶民は賃餅といって菓子屋に注文したが、武家や富裕な商家では家で餅つきをした

江戸時代後期の粟餅屋を題材にした歌舞伎「花競俄曲突」を描いた錦絵

落語の演目にもなった「幾世餅(いくよもち)」は、元禄(1688-1704)のころに人気があったという江戸名物の餡餅です。

幾世餅店の図

幾世餅の元祖とされる小松屋の商標

ほかに、江戸の庶民に愛された餅菓子には粟餅(あわもち)があります。糯粟(もちあわ)から作る黄色い餅で、黄な粉をまぶしたり、餡を包んだりして食べられます。

粟餅が搗きあがるまでの間、主人公が店先でうたた寝をして長い夢を見ていたという設定で、目黒不動尊前の粟餅屋が舞台として登場している

粟餅屋の図。搗きあがった餅を皿の中に投げ込んでいる。掛け声に合わせて杵を振り上げたり、離れた皿へ丸めた餅を投げ入れたりして見物客を沸かせていた

Writers and poets with a sweet tooth

明治以降、活躍した作家たちの作品からはその登場人物が、随筆や手記からは作家たち本人が、和菓子を堪能する様子が伝わってきます。ここでは、餡子にまつわるエピソードを紹介します。

「余は凡(すべ)ての菓子のうちで尤(もっと)も羊羹が好きだ」と言うのは、夏目漱石の小説『草枕』の主人公です。「あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける工合は、どう見ても一個の美術品だ。ことに青味を帯びた煉上げ方は、玉(ぎょく)と蝋石(ろうせき)の雑種のようで、甚(はなは)だ見て心持ちがいゝ。」と羊羹独特の風合いの美しさを褒めています。
肉・魚・野菜など全国各地の名産品に交じって、「山形ののし梅、青森の林檎羊羹、大阪のおこし、京都の八橋煎餅、三河の魚煎餅、甲州の月の雫、 熊本の飴、横須賀の水飴」など、さまざまな菓子の名が挙げられている。

女流歌人・与謝野晶子は、羊羹で知られた老舗和菓子店「駿河屋」の生まれ。生家では家業を手伝い、店先に立ったり、羊羹を切ったりしていたそうです。その頃の思い出を詠んだと思われる歌に「叔母達と小豆を選りしかたはらにしら菊咲きし家のおもひで(『朱葉集』)」があります。

『しるこ』 という短い随筆の中で、「僕等はもう廣小路の「常盤」にあの椀になみなみと盛た「おきな」を味はふことは出來ない」と、関東大震災で贔屓(ひいき)の汁粉屋が無くなってしまったことを惜しんでいます。

本ページはダイジェスト版です。ぜひ、オリジナルサイト:https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/25/3.html(国立国会図書館HPへ飛びます)もご覧ください。