Jump to main content

伊勢物語講本*の諸本の一本と目される伊勢物語注釈書。注釈者の可能性として、講釈日の記述から烏丸光広(からすまるみつひろ、1579〜1638)、あるいは引用された注釈の特徴から後水尾天皇(ごみずのおてんのう、1596〜1680)などが想定されるが、未詳である。『闕疑抄(けつぎしょう)』を中心に『愚見抄(ぐけんしょう)』『肖聞抄(しょうもんしょう)』『直解(ちょっかい)』『惟清抄(いせいしょう)』、さらには現在では素性の知れぬ古注釈なども引用しており、諸注集成の性格を持つ。書名に「逍遥院御抄」、すなわち三条西実隆(さんじょうにしさねたか、1455~1537)の名を冠する通り、その内容は三条西家流の注釈の流れを汲むものである。未解明な点も多く残されているが、それゆえに本書の古注釈としての位置づけは、かえって重要なものになると考えられる。

広島大学図書館蔵本(国文1839)写本2冊。書写奥書はなく、書写年代・書写者ともに不明。阿波国文庫旧蔵本。全125段・和歌209首を有し、この章段数・和歌数は、現行伝本で主流を占める定家本系統と一致している。


*伊勢物語講本とは…大津有一『伊勢物語古注釈の研究』の諸本分類による一分類群。8つの諸本がここに属し、書写年代の明否は一様ではないが、多くは江戸前期から中期頃の書写と考えられる。


【参考】

妹尾好信・安道百合子校『伊勢物語逍遥院御抄(阿波国文庫旧蔵・広島大学蔵)上』「翻刻平安文学資料稿」第3期第4巻(1997年、広島平安文学研究会)

朝倉和・猪川優子校『伊勢物語逍遥院御抄(阿波国文庫旧蔵・広島大学蔵)下』「翻刻平安文学資料稿」第3期第5巻(2001年、広島平安文学研究会)

大津有一『伊勢物語古注釈の研究』(1954年初版、宇都宮書店/1986年増訂版、八木書店)