日本人の盲点
日本人が気づくことのできなかった戦争の裏の顔とは?
〈館長あいさつ〉
この博物館では、戦争に対する人々の見方や影響を表現しているものを展示しています。今日に至っても続いている戦争は多くあり、日本からそう遠い話でもないというのは周知の事実です。しかし実際に戦争を体験した人間は減ってきているわけで、そのような人々から話を聞く場面も減少してきています。では戦争未体験の世代はどうやって戦争を理解するのか。映像や当時の建造物を見るのが一番早いでしょう。国が所有している映像資料を図書館で視聴したり、原爆ドームなんかに行くのもいいでしょう。しかしこの博物館ではあえて、写真や版画といった、「動かない」資料を展示しています。特に版画は、なにかを暗示して表現しているものが多く、わかりづらいと感じるかもしれませんが、それは人それぞれの解釈の仕方を邪魔しないようにするためです。自分なりに戦争を理解し、解釈することを促すのがこの博物館の展示の目的です。
〈この展示について〉
第一次世界大戦時、日本は戦勝国となり多大な利益を手にしました。しかし、戦争で得られる利益に味をしめた日本は第二次世界大戦で大敗し、ボロボロになってしまいました。日本は、戦争の二面性に気づけなかったのです。自分たちの勝利に酔い、敗戦国であるドイツなどの現状を想像できなかった。戦争があんなにも残酷であったとは、1919年時点では気づいていなかったのです。日本は戦争の非人道的で残酷すぎる面に目を向けるべきでした。それができていれば、1941年に零式艦上戦闘機が真珠湾を攻撃することもなかったでしょう。東京で焼夷弾によって日本人10万人の命が奪われることもなかったでしょう。今後我々は、戦争がもたらす悲惨で無慈悲な死と破壊にも目を向け適切な判断をするべきなのです。その足がかりとしてこの博物館の展示が利用されれば、本望であります。
酔いしれる日本人
- 第一次世界大戦講和記念の花電車
第一次世界大戦講和条約記念の花電車。橋場町。後方中央建物はスミレ写真館。
〈館長からの一言〉
第一次世界大戦の戦勝国である日本は,ベルサイユ条約で中国における権益や国際連盟の常任理事国の地位を獲得したため,戦争によって得た利益が大きかった。そのため,国民も日本の勝利を盛大に祝っていたのだ。
この写真から、人々は勝敗によって戦争への見方を大きく変えるということがうかがわれる。
破滅の軌跡
- Los Desastres de la Guerra (56) <Al cementerio. >
ゴヤ・イ・ルシエンテス、フランシスコ・ホセ・デ,ごや,GOYA y Lucientes, Francisco José de
[作家名(スペイン語)] Francisco José de GOYA y Lucientes
〈館長からの一言〉
フランシスコ・デ・ゴヤの『戦争の惨禍』のうちの一つ。飢餓に苦しむ人々が集う街の中を、粗末な毛布に包まれた死体を必死に運ぶ様子が描かれている。『戦争の惨禍』はスペイン独立戦争に直面した作者が戦争における凄惨な現実を描いた版画集。死体を墓地へ運ぶ様子が直接的に描かれている56番は、戦争が招いた無慈悲な死と、それが日常となってしまった日々を描いている。戦争の非人道性をとてもよく表している。
- Los Desastres de la Guerra (66) <Extraña devocion!>
ゴヤ・イ・ルシエンテス、フランシスコ・ホセ・デ,ごや,GOYA y Lucientes, Francisco José de
[作家名(スペイン語)] Francisco José de GOYA y Lucientes
〈館長からの一言〉
フランシスコ・デ・ゴヤの『戦争の惨禍』のうちの一つ。死体に向かって頭を下げ、異様な表情で宗教的儀式を行う人々が描けれている。『戦争の惨禍』はスペイン独立戦争に直面した作者が戦争における凄惨な現実を描いた版画集。戦争によって混乱した社会の中、半ば狂気的に宗教活動を行う人々を描いた66番は、長い戦争の影響で精神的に疲弊し盲信している民衆の姿を描いていて、戦争が精神に与える影響を表現している。
- Los Desastres de la Guerra (72) <Las resultas.>
ゴヤ・イ・ルシエンテス、フランシスコ・ホセ・デ,ごや,GOYA y Lucientes, Francisco José de
[作家名(スペイン語)] Francisco José de GOYA y Lucientes
〈館長からの一言〉
フランシスコ・デ・ゴヤの『戦争の惨禍』のうちの一つ。地面に横たわる人間を喰らう怪物のような姿をした生物が描かれている。『戦争の惨禍』はスペイン独立戦争に直面した作者が戦争における凄惨な現実を描いた版画集。そのうちでも、戦争が生み出すのは正義も正当性もない死と破壊だけであることを示している72番は、特に悪夢的な情景が描かれている。まさに戦争の本質をついていると言える。
- Los Desastres de la Guerra (76) <El buitre carnívoro.>
ゴヤ・イ・ルシエンテス、フランシスコ・ホセ・デ,ごや,GOYA y Lucientes, Francisco José de
[作家名(スペイン語)] Francisco José de GOYA y Lucientes
〈館長からの一言〉
フランシスコ・デ・ゴヤの『戦争の惨禍』のうちの一つ。逃げ惑う群衆に襲いかかる禿鷹が描かれている。『戦争の惨禍』はスペイン独立戦争に直面した作者が戦争における凄惨な現実を描いた版画集。この76番は、戦争による無差別な殺戮や非人道的な行為を、死肉を貪ることもある禿鷹に重ね、人間社会を日常的に食い荒らす戦争を表現している。戦争の残酷さや、戦争への恐怖を寓意的に表現している。
〈展示を見終わった方へ〉
展示はどうだったでしょうか。人によってはショッキングに感じた人もいるかもしれませんね。でも、これが本来の戦争なのです。戦争は勝った負けたではなく、するしないの問題なのです。正常な人間なら、死体になりたくはありませんよね。ならば、無益な争いはしないことです。破壊が破壊を生む戦争なんて人間になんの利益ももたらしません。そのことは、展示をちゃんと見てくださった方なら簡単にわかりますよね。そのことを心に留めていただければ幸いです。
〈展示関連イベントについて〉
東京富士美術館で「フランシスコ・デ・ゴヤ 四大連作版画展」が開催予定。期間は2026年2月7日〜2026年3月22日。
『戦争の惨禍』『気まぐれ』他二作が展示予定。

